海外口座や海外法人持分を保有している経営者から、「民事信託で整理できないか」という相談を受けることがあります。
民事信託は資産管理や承継設計の有効な手段ですが、海外資産が絡む場合、税務リスクが複層的に生じます。
本稿では、海外資産を信託財産とする場合の税務リスクを整理します。
前提:民事信託は節税制度ではない
まず重要なのは、民事信託は原則として「課税関係を変える制度」ではないという点です。
信託を設定しただけで、
- 所得税が軽くなる
- 相続税が減る
- 国外財産調書が不要になる
ということはありません。
税務は実質帰属で判断されます。
リスク1:所得の帰属誤認
信託財産から生じる所得は、原則として受益者に帰属します。
海外口座を信託財産とした場合、
- 利息
- 配当
- 譲渡益
が誰に帰属するかを正確に整理しなければなりません。
形式上受託者が管理していても、税務上の帰属は別問題です。
リスク2:国外財産調書との関係
海外資産を信託に入れた場合でも、
- 実質的に受益者が保有していると評価されれば
- 国外財産調書の提出義務が生じる
可能性があります。
「信託に入れたから個人保有ではない」という単純な整理は危険です。
リスク3:贈与税・相続税の問題
信託設計によっては、
- 受益者変更
- 将来受益者の設定
が贈与税の課税対象となる可能性があります。
海外資産の場合、さらに外国税制との交錯が生じます。
リスク4:実質帰属と重加算税
海外法人持分や海外口座を信託に移した場合、
- 実質的に支配が変わっていない
- 形式的な移転にとどまる
と判断されれば、仮装・隠蔽と評価されるリスクもあります。
信託は透明性を高めるための制度であり、実質を伴わない移転は危険です。
リスク5:現地法との不整合
日本法に基づく民事信託が、海外法域でどのように扱われるかは別問題です。
- 信託の法的承認
- 名義変更手続
- 課税主体の判断
が一致しない場合、二重課税や課税漏れリスクが生じます。
中小企業オーナー特有の論点
オーナー経営者の場合、
- 自社株
- 海外子会社
- 個人海外資産
が混在します。
海外法人持分を信託に組み込む場合、
- 支配関係の変化
- 事業承継税制との関係
- 移転価格や帰属問題
が波及します。
信託単体で完結する問題ではありません。
実務上の確認ポイント
1 信託目的が明確か
2 所得帰属を整理しているか
3 国外財産調書への影響を確認しているか
4 贈与税リスクを検討しているか
5 現地法との整合を確認しているか
信託設計は、税務・法務・国際法の三層で確認する必要があります。
典型的な誤解
- 「信託に入れれば相続税が回避できる」
- 「海外資産を信託にすれば安全になる」
- 「名義を変えれば帰属は変わる」
いずれも、実質課税の原則を見落とした考え方です。
結論
海外資産と民事信託の組み合わせは、有効な管理手段となり得ます。
しかし、税務リスクを理解せずに設計すると、
- 所得帰属問題
- 国外財産調書未提出
- 贈与税課税
- 重加算税リスク
が生じます。
重要なのは、
- 実質を伴った設計
- 税務との整合
- 国際的視点での確認
です。
民事信託は管理のための制度であり、課税回避の道具ではありません。
国際的な情報交換が進む現在、透明性を高める設計こそが安全な選択となります。
参考
税のしるべ
「6事務年度の租税条約に基づく情報交換事績、過去最多のCRS情報を受領」
2026年2月9日付
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
