海外資産が税務調査の対象となった場合、すべてを争うべきではありません。
また、すべてを受け入れるべきでもありません。
重要なのは、「何を争い、何を引くか」という戦略的判断です。
判断を誤ると、重加算税や徴収段階にまで波及する可能性があります。
本稿では、海外資産が論点となった場合の実務的な線引きを整理します。
まず整理すべき前提
海外資産が問題となる場合、主な論点は次のいずれかです。
- 所得の帰属
- 財産の帰属
- 評価額
- 申告義務の有無
- 仮装・隠蔽の有無
どの論点なのかを正確に特定することが出発点です。
争うべき論点
1 実質帰属の認定
海外法人名義の資産について、個人帰属と認定された場合。
形式だけでなく、
- 出資関係
- 経営関与
- 利益享受の実態
を踏まえて判断されます。
実態が法人にあるなら、安易に個人帰属を受け入れるべきではありません。
2 評価額の妥当性
海外未上場株式や不動産の評価は、合理的な評価方法が前提です。
評価手法や前提条件に疑問がある場合は、資料に基づき反論可能です。
評価論点は、感情ではなく計算と根拠で争う領域です。
3 調書提出義務の判断
国外財産調書や財産債務調書の提出義務について、
- 合計額の算定方法
- 居住者該当性
- 帰属判断
に誤解がある場合は、制度解釈として整理する価値があります。
4 重加算税の適用
仮装・隠蔽があったとされる場合、最も慎重に検討すべき論点です。
- 隠蔽行為の具体性
- 意図の有無
- 調査前の対応
を精査し、重加算税の要件該当性を確認します。
ここは引いてはいけないことが多い領域です。
引くべき論点
1 明確な所得漏れ
海外口座の利息や配当が未申告であり、計算も明確な場合。
争う余地が乏しい論点を無理に主張すると、全体の信用を損ないます。
2 形式的ミス
為替換算誤りや記載方法の誤りなど、事実関係が明確なミス。
早期是正の方が合理的です。
3 証拠不足の主張
資料が存在しない、説明が一貫しない場合。
感覚的な主張は避けるべきです。
実務判断の軸
争うか引くかの判断軸は、次の3点です。
1 事実関係に裏付けがあるか
2 法令解釈に合理性があるか
3 長期的な影響は何か
特に海外資産案件では、徴収段階や相続への波及も考慮します。
中小企業オーナーの場合
オーナー経営者は、
- 海外子会社
- 関連当事者取引
- 個人と法人の資金移動
が絡み、論点が複合化します。
一部を引くことで、核心論点(帰属や重加算税)を守る戦略が必要です。
調査対応の姿勢
争うべき論点を明確にしつつ、
- 事実は隠さない
- 説明は一貫させる
- 感情的対立を避ける
ことが重要です。
海外資産は情報共有が進んでいる分野です。
誤った前提で強硬に争うことは得策ではありません。
結論
海外資産をめぐる税務調査では、戦略的判断が求められます。
争うべきは、
- 実質帰属
- 評価
- 重加算税
引くべきは、
- 明確な計算誤り
- 証拠不足の主張
です。
すべてを守ろうとすると、守るべき核心を失います。
国際的な情報交換と徴収共助が機能する現在、論点整理と選択が実務の要となります。
参考
税のしるべ
「6事務年度の租税条約に基づく情報交換事績、過去最多のCRS情報を受領」
2026年2月9日付
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
