銀行・証券・保険といった金融分野の垣根を越え、ワンストップで商品を提案できる仕組みとして2021年に創設された金融サービス仲介業。当時は「金融版アマゾン」とも呼ばれ、消費者がスマートフォン一つで最適な金融商品を比較・選択できる世界が描かれていました。
しかし制度開始から数年が経過した現在、登録業者は想定を大きく下回り、特に保険分野の取り扱いは限定的です。なぜ理想と現実にこれほどの差が生まれたのでしょうか。本稿では制度の趣旨、現状の課題、そして今後の見直しの方向性について整理します。
制度創設の背景と狙い
従来、銀行代理業や保険代理店は特定の金融機関に属する形が基本でした。そのため、顧客に提示できる商品は所属先のラインナップに制約されます。金融サービス仲介業は、こうした縦割り構造を打破し、独立した立場から複数分野の商品を横断的に扱えるようにする制度です。
理想像は明確でした。例えば、家計管理アプリと連動し、住宅ローン、投資信託、生命保険などをライフステージに応じて提案する。あるいは新NISAを活用した資産運用サービスにシームレスにつなぐ。デジタル化が進む中で、顧客が主体的に金融商品を選べる環境を整えることが狙いでした。
制度創設時には多くの事業者の参入が見込まれていましたが、実際には登録数は限定的にとどまっています。
広がらない理由――特に保険分野の壁
登録が伸び悩む要因の一つが、保険商品の取り扱い制限です。制度設計上、「高度に専門的な説明」を要する商品は仲介業の対象外とされました。その結果、保険金額が一定額を超える生命保険や終身保険などは扱えない仕組みとなっています。
保険は家計に与える影響が大きく、商品性も複雑です。顧客保護の観点から慎重な設計がなされたのは理解できますが、結果として「ほとんど提案できる商品がない」という状況が生まれました。ワンストップを掲げながら、重要分野が抜け落ちているのです。
さらに保険業界では、代理店への過度な便宜供与など販売慣行を巡る問題が表面化し、監督強化が進められてきました。金融庁は保険会社に対し、代理店管理や顧客意向の丁寧な把握を求めています。こうした流れの中で、規制緩和には慎重論も強まっています。
規制緩和と顧客保護のせめぎ合い
制度開始から5年を目途に検証することが定められており、現在は見直し議論の局面にあります。保険金上限の撤廃・引き上げ、カードローンや信託商品の解禁などが要望として挙がっています。
ただし、規制を緩めればすべてが解決するわけではありません。仲介業者は独立した立場であるがゆえに、特定の金融機関による統制が及びにくい面もあります。ガバナンスが十分でなければ、顧客本位の提案が形骸化する懸念もあります。
顧客目線の徹底、十分な知識を持つ人材配置、苦情処理体制の整備などは、制度の信頼性を支える基盤です。自由度を高めることと、責任を強めることは常にセットで議論されるべきテーマです。
デジタル時代の金融仲介の意味
一方で、家計管理アプリやオンライン家計診断サービスと連動した証券分野の活用は着実に広がっています。デジタル接点を通じて、投資一任サービスや口座開設へとつなぐ動きは、まさに制度が想定した姿に近いものです。
日本では家計の金融資産の半分以上が現預金に偏っています。新NISAの拡充などを通じて資産形成を後押しする政策が進む中、分野横断的なアドバイスの需要は今後も高まると考えられます。
金融サービス仲介業は、単なる販売チャネルの拡張ではなく、家計全体を俯瞰した提案を可能にする枠組みとして再設計される必要があります。
結論
金融サービス仲介業は、「銀・証・保」の垣根を越えるという理念のもとに誕生しました。しかし、現実には保険分野を中心に取り扱い制限が壁となり、制度のポテンシャルを十分に発揮できていません。
今後の見直しでは、規制緩和か現状維持かという二者択一ではなく、顧客保護を前提とした柔軟な制度設計が求められます。販売自由度の拡大と同時に、説明責任や内部管理体制の高度化をどう確保するかが鍵となります。
資産形成時代における金融仲介のあり方は、単なる業界調整の問題ではなく、家計の将来設計に直結するテーマです。制度の再構築が、消費者本位の金融市場につながるかどうか、今後の議論を注視する必要があります。
参考
日本経済新聞「『金融版アマゾン』不発 『銀・証・保』の垣根越え仲介」(2026年2月12日朝刊)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

