株式取引はデジタル化が進んだ現在でも、「売買成立から受け渡しまでの時間差」という仕組みを前提に成り立っています。
日本では2019年から、取引成立日(約定日)の2営業日後に株式と代金を受け渡す「T+2」が採用されています。
こうした中、大手証券会社と3メガバンクが連携し、ステーブルコインを用いた株式取引・決済の実証実験に乗り出すことが明らかになりました。
ブロックチェーン技術を活用し、24時間365日・即時決済を目指す取り組みです。
本稿では、この動きが何を意味するのか、従来の決済制度との違い、日本市場への影響を整理します。
ステーブルコインを使った株式売買とは何か
今回構想されているのは、法定通貨に連動するステーブルコインを用いて、株式や債券、投資信託などの有価証券をブロックチェーン上で取引・決済する仕組みです。
株式をデジタル証券として発行し、売買が成立すると同時に、
- 買い手からステーブルコインで代金が支払われ
- 売り手から株式の権利が移転する
という流れを想定しています。
従来のように、決済機関や清算機関を経由して数日待つ必要がなくなります。
ステーブルコインは価格変動の大きい暗号資産とは異なり、円などの法定通貨と連動する仕組みであるため、決済手段としての安定性が前提とされています。
なぜ「決済のタイムラグ」が問題になるのか
株式取引における決済の遅れは、長年当たり前のものとされてきましたが、リスクも伴います。
売買成立から受け渡しまでの間に、
- 相手方が破綻する
- システム障害が起きる
といった事態が生じれば、株や代金を受け取れない可能性が残ります。
これを「決済リスク」と呼びます。
このリスクを低減するため、米国では2024年から決済期間を「T+1」に短縮しました。
カナダも同様の対応を取り、欧州やアジアでも短縮に向けた検討が進んでいます。
日本でT+1が進みにくい理由
日本でもT+1導入に向けた議論は進められていますが、慎重論が根強いのが実情です。
理由として挙げられるのが、
- 欧米との時差による夜間業務の増加
- 証券会社・金融機関の事務負担の増大
- 人的ミスの増加リスク
といった実務面の課題です。
単純に「決済日を1日早める」だけでは、かえって市場の安定性を損なうおそれがある、という見方もあります。
ブロックチェーンが示す「T+0」という選択肢
こうした中で注目されているのが、ブロックチェーン技術を活用した即時決済(T+0)です。
分散型台帳を使えば、
- 取引記録の改ざんが困難
- 権利移転と決済を同時に処理可能
という特性を生かし、理論上は24時間365日の取引が可能になります。
今回の実証実験は、単なる決済短縮ではなく、市場インフラそのものを作り替える試みといえます。
市場活性化と新たな課題
即時決済が実現すれば、
- 時差を気にせず海外投資家が取引できる
- 流動性が高まり、取引量が増える
といった効果が期待されます。
海外ではすでに、MMFなどをブロックチェーン上で流通させる動きが広がっています。
一方で、課題も少なくありません。
- 注文照合や約定管理をどう即時化するか
- 既存の金融商品取引法制との整合性
- 投資家保護の枠組みをどう確保するか
といった点は、実証実験を通じて検証が必要になります。
結論
ステーブルコインを使った株式売買の構想は、「決済を早める」という話にとどまりません。
それは、日本の証券市場が国際競争力を維持できるかどうかを左右するインフラ改革でもあります。
T+1か、T+0かという議論の先には、
「どのような市場を次世代に残すのか」
という問いがあります。
実証実験の行方は、日本の金融市場の将来像を占う重要な試金石となりそうです。
参考
・日本経済新聞「ステーブルコインで株売買 大手証券・3メガ銀が連合」
・日本経済新聞「株式の決済 タイムラグ短縮、検討進む」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

