2027年度に予定されている介護保険制度改正に向けて、制度の持続可能性をめぐる議論が本格化しています。
介護保険は高齢社会を支える基幹制度ですが、給付費の急増、人材不足、地域格差の拡大など、構造的な問題が一気に表面化しています。
本稿では、介護保険制度が直面する現実を整理したうえで、「公費負担を6割に引き上げる」という提案が持つ意味について考えます。
介護保険財政はすでに限界に近づいている
介護保険制度の総費用は、制度発足当初の約3.6兆円から、2025年度には14兆円超へと拡大しました。
今後も高齢化の進行により、2040年度には27兆円規模に達すると見込まれています。
これに伴い、65歳以上が負担する介護保険料も上昇を続け、全国平均の基準額は将来的に月額9,000円台に達する見通しです。
地域差も大きく、住む場所によって負担感が大きく異なる状況が生まれています。
利用者負担引き上げでは解決にならない理由
制度改正の議論では、一定所得以上の利用者の自己負担割合を2割に引き上げる案が検討されてきました。
しかし、対象拡大を行っても財政効果は限定的で、年間200億円程度にとどまるとされています。
給付費全体が十数兆円規模に達する中では、焼け石に水と言わざるを得ません。
利用者負担の調整だけでは、制度全体の持続性を確保することは難しいのが現実です。
本当のボトルネックは「介護人材の賃金」
介護保険制度の最大の課題は、人材確保です。
介護サービスは現物給付が中心であり、担い手である介護職員の存在が不可欠です。
しかし、介護職員の賃金水準は全産業平均と比べて大きく見劣りします。
この差を埋めるには、年間で1.5兆円から2兆円規模の追加財源が必要と試算されています。
事業者の経営努力や効率化には限界があり、介護報酬という公定価格が上がらなければ、賃上げは実現しません。
進む人材不足と「サービスが存在しない地域」
介護人材不足は、すでにサービス供給そのものを脅かしています。
介護職員数は減少に転じ、特に訪問介護では有効求人倍率が極端に高い水準にあります。
その結果、訪問介護事業所が存在しない自治体も増えています。
制度としては介護保険があっても、実際にはサービスを受けられない「空洞化」が進行しているのです。
臨時の賃上げ措置では追いつかない
政府は介護報酬の臨時改定により、一定の賃上げを実施しました。
しかし、他産業ではさらなる賃上げが進む中、この水準では人材流出を止める効果は限定的です。
外国人材の活用や、ロボット・ICTの導入も進められていますが、人の代替となる段階には至っていません。
介護は「経済・労働政策」の問題でもある
現在、働き盛り世代の多くが親の介護に直面しています。
安定した介護サービスが確保されなければ、介護離職が増え、労働人口の減少につながります。
介護は福祉政策にとどまらず、雇用政策・経済政策の一部として位置づける必要があります。
企業にとっても、ビジネスケアラー対策は経営上の重要課題です。
公費負担6割という選択肢
これ以上の保険料引き上げは、高齢者・現役世代ともに限界があります。
そのため、介護保険財政における公費負担割合を、現行の5割から6割へ引き上げるという提案が出されています。
財源としては、法人税の引き上げや高齢者層の資産課税強化が想定されています。
これは世代間ではなく、世代内で負担を分かち合うという考え方に基づくものです。
公務員ヘルパーという発想
過疎地域では、民間事業者の参入が難しくなっています。
そこで、自治体が直接介護サービスを提供する「公務員ヘルパー」という構想も提示されています。
安定した雇用を地域で生み出すことで、若者の流出防止や地域活性化にもつながる可能性があります。
介護を雇用創出のインフラとして捉え直す視点です。
結論
介護保険制度は、小手先の調整で乗り切れる段階をすでに超えています。
人口減少、物価高、円安、財政制約という環境の中で、制度設計そのものの再構築が求められています。
介護を福祉だけの問題とせず、経済・雇用・地域政策と一体で考えること。
その出発点として、「公費負担6割」という提案は、制度の本質を突く重要な論点だといえるでしょう。
参考
・日本経済新聞「苦境の介護保険制度(中) 公費負担6割に引き上げを」
・厚生労働省 介護保険制度・介護人材に関する公表資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

