事業承継は、税金や制度の問題以上に、
人と感情が絡むテーマです。
どれだけ綿密な計画を立て、
税負担を抑える対策を講じたとしても、
関係者の理解や合意がなければ、承継はうまく進みません。
実務の現場で起きるトラブルの多くは、
「準備不足」や「話し合いの欠如」によるものです。
本稿では、シリーズの締めくくりとして、
事業承継で揉めないために、
最後に必ず確認しておくべき準備事項を整理します。
1.家族会議を避けてはいけない
事業承継において、
最も重要でありながら、
最も避けられがちなのが家族会議です。
- 後継者は誰なのか
- なぜその人なのか
- 他の家族はどう関わるのか
これらを曖昧にしたまま進めると、
相続発生時や承継後に不満が噴き出します。
事業承継は、
経営者個人の問題ではなく、
家族全体の問題でもあります。
時間をかけてでも、
話し合いの場を設けることが不可欠です。
2.株主名簿は会社の履歴書である
中小企業では、
株主名簿が整備されていないケースが少なくありません。
- 名義株と実質株主の不一致
- 過去の株式移動の不明確さ
- 相続による分散
これらは、事業承継の場面で大きな障害になります。
株主名簿は、
会社の歴史と権利関係を示す重要な書類です。
承継を考える段階で、
必ず整備しておく必要があります。
3.定款と議事録は「後から効く」
定款や議事録は、
普段の経営では意識されにくい書類です。
しかし、事業承継や相続の場面では、
これらが大きな意味を持ちます。
- 株式譲渡制限の有無
- 相続人への売渡請求条項
- 株券不発行の定め
これらが整備されているかどうかで、
承継の難易度は大きく変わります。
また、過去の役員変更や株式移動に関する議事録が整っていないと、
後から説明がつかなくなることもあります。
4.合意事項は必ず文書化する
事業承継では、
「親子だから」「信頼しているから」
という理由で、口約束に頼りがちです。
しかし、実務上は、
合意事項は必ず文書に残すべきです。
- 社長交代の時期
- 先代経営者の処遇
- 後継者に託す経営方針
これらを文書化することで、
後から生じる解釈の違いを防ぐことができます。
文書は、
不信の証ではなく、
円滑な承継のための道具です。
5.遺留分への配慮を忘れない
事業承継では、
後継者以外の相続人の存在を忘れてはいけません。
- 遺留分侵害額請求の可能性
- 生前贈与の扱い
- 相続時の評価方法
これらを無視して進めると、
承継後に紛争が生じる可能性があります。
事業承継は、
会社を守るためのものですが、
同時に、家族関係を壊さない配慮も必要です。
結論
事業承継は、
制度や税金だけで完結するものではありません。
- 話し合い
- 整理
- 文書化
これらの地道な準備が、
最終的に承継の成否を分けます。
本シリーズで見てきたように、
事業承継には多くの選択肢がありますが、
共通して言えるのは、
早めに、丁寧に準備することが最大の対策だという点です。
このシリーズが、
事業承継に向き合う経営者やご家族にとって、
考えるきっかけになれば幸いです。
参考
- 東京税理士会 全国統一研修会配布資料
「事業承継準備のためのチェックリスト」令和7年度
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
