事業承継を考える際、
「事業承継税制を使うかどうか」
が大きな分かれ目になることは、第7回で述べたとおりです。
一方で、実務の現場では
あえて事業承継税制を使わない
という判断が合理的なケースも少なくありません。
本稿では、事業承継税制に依らずに承継を進める方法として、
相続時精算課税や段階的な株式承継の考え方を整理します。
1.「一度に譲る」ことが難しいケース
事業承継税制の特例措置では、
原則として、代表者交代とともに、
一定割合以上の自社株式をまとめて承継することが求められます。
しかし、次のような経営者も少なくありません。
- 後継者の経営判断を見極めながら進めたい
- すぐに代表権を譲ることに不安がある
- 段階的に責任と権限を移していきたい
このような場合、
一度に株式を譲る前提の制度は、
経営の実態に合わないことがあります。
2.相続時精算課税という考え方
相続時精算課税は、
贈与時には原則として税負担を抑え、
最終的に相続時にまとめて精算する制度です。
事業承継の場面では、
次のような使い方が検討されます。
- 毎年、一定数の株式を贈与する
- 贈与時点の評価額を固定する
- 将来の相続時に合算して整理する
この方法の特徴は、
株価の上昇リスクを早期に確定できる点にあります。
3.毎期の株価評価が意味を持つ
段階的な株式承継を行う場合、
毎決算期に自社株式の相続税評価額を確認することが重要です。
これにより、
- 贈与のタイミング
- 贈与株数
- 課税関係の見通し
を、都度調整することが可能になります。
一度に結論を出すのではなく、
状況を見ながら軌道修正できる点が、
この方法の大きな利点です。
4.暦年贈与と組み合わせる視点
相続時精算課税だけでなく、
低い税率水準の暦年課税を活用する方法もあります。
- 基礎控除を活用した少額贈与
- 株価が一時的に下がった局面での贈与
これらを組み合わせることで、
税負担を抑えつつ、
時間をかけて承継を進めることが可能です。
重要なのは、
制度を固定的に使うのではなく、組み合わせて考えることです。
5.制度を使わないからこそ必要な整理
事業承継税制を使わない場合、
制度による縛りはありません。
その分、
- 家族間の合意
- 株主構成の整理
- 遺留分への配慮
といった、
人と法務の整理がより重要になります。
税制に頼らない分、
事前の話し合いと文書化が欠かせません。
結論
事業承継税制を使わない選択は、
決して消極的な判断ではありません。
後継者の成長を見守りながら、
柔軟に承継を進められるという点で、
経営の実態に合った方法になることもあります。
大切なのは、
制度に合わせて事業承継を行うのではなく、
事業と人に合わせて制度を選ぶことです。
次回は、シリーズの最終回として、
事業承継で揉めないための準備とチェックリストを解説します。
参考
- 東京税理士会 全国統一研修会配布資料
「事業承継税制を使わない手法/相続時精算課税贈与」令和7年度
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
