事業承継の相談を受けていると、
「株式の贈与や相続税対策から始めたい」
という希望を聞くことがあります。
しかし、実務の現場では、事業承継対策の前提として
必ず先に整理しておくべきことがあります。
それが、事業用資産と経営者個人の財産の分離です。
この整理を後回しにしたまま承継対策を進めると、
税務・法務・財務のあらゆる場面で問題が噴き出します。
本稿では、なぜ事業用資産と個人財産を分ける必要があるのか、
そして、どのような視点で整理すべきなのかを解説します。
1.なぜ分けなければならないのか
中小企業では、会社と経営者個人の財産が混在しているケースが少なくありません。
- 経営者個人名義の土地を会社が使用している
- 会社名義の不動産を経営者が私的に使っている
- 会社への貸付金や立替金が整理されていない
現役時代は問題が表面化しなくても、
事業承継や相続の場面では、これらが一気に問題になります。
誰の財産なのかが不明確なままでは、
承継後の経営判断や相続手続きが滞ります。
2.事業承継対策の前提整理という考え方
事業承継対策の本質は、
次の世代が経営しやすい状態を作ることです。
そのためには、まず次の点を明確にする必要があります。
- 会社として今後も必要な資産は何か
- 経営者個人として保有すべき財産は何か
- どちらにも属さない不要な資産はないか
この整理をせずに株式承継を進めると、
後継者が「使えない資産」や「判断に迷う資産」を抱えることになります。
3.経営者個人財産の洗い出し
実務では、経営者個人の財産を一覧表にして整理します。
主に確認するのは、次のような項目です。
- 有価証券
- 不動産(土地・建物)
- ゴルフ会員権や美術品
- 会社への貸付金
ここで重要なのは、
事業で使っているかどうかという視点です。
事業で使っているにもかかわらず個人名義のままの資産は、
将来的に会社へ移すかどうかを検討します。
4.個人名義の事業用資産をどうするか
たとえば、経営者個人が所有する土地を会社が使用している場合、
次のような選択肢があります。
- 賃貸借を継続する
- 将来的に会社へ売却する
- 承継のタイミングで移転する
どれが正解というわけではありません。
重要なのは、長期的な事業承継の視点で選ぶことです。
売却する場合には、会社側の資金繰り、
個人側の譲渡所得税の負担も併せて検討する必要があります。
5.会社財産の私的利用にも注意する
逆に、会社名義の資産を経営者が私的に使っているケースもあります。
- 別荘
- 絵画や貴金属
- ゴルフ会員権
これらは、承継前に整理しておかないと、
後継者との間でトラブルになる可能性があります。
承継後に
「これは会社のものか、個人のものか」
という議論が起きない状態を作ることが重要です。
結論
事業承継対策は、いきなり株式や税金の話から始めるものではありません。
その前に、事業用資産と個人財産を明確に分ける必要があります。
この整理を行うことで、
- 承継後の経営判断がしやすくなる
- 税務・法務のリスクが減る
- 後継者の負担を軽くできる
といった効果が期待できます。
次回は、事業承継の大きな障害となりやすい
経営者の個人保証の問題について解説します。
参考
- 東京税理士会 全国統一研修会配布資料
「事業用資産と個人との分離」令和7年度
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
