事業承継について考え始めた経営者から、
「結局、何から手を付ければいいのかわからない」
という声をよく聞きます。
事業承継は、思い付きや場当たり的な対応で進めるものではありません。
一定の順番と整理された手順に沿って進めることで、
無用な混乱や後戻りを防ぐことができます。
本稿では、税理士の立場から見た
事業承継業務の基本的な進め方を、五つのステップに分けて解説します。
1.初対面の相談で確認すべきこと
事業承継の相談は、最初の面談が非常に重要です。
この段階で大切なのは、制度や手法を提示することではありません。
税理士が最初に確認すべきなのは、次のような点です。
- 経営者本人がどこまで本気で事業承継を考えているか
- 相談の背景に、何らかのきっかけがあるか
- 後継者候補が存在するか
初回相談では、詳細な検討に入る前に、
資料の提出を依頼することで、相談者の本気度を見極めることもあります。
事業承継は長期戦になるため、
最初の段階で温度感を共有できるかどうかが、その後を左右します。
2.現状把握は「全体像」から行う
次のステップは、現状の把握です。
ここで注意すべきなのは、いきなり細かい論点に入らないことです。
まず把握すべきなのは、全体像です。
- 会社の沿革や事業内容
- 株主構成
- 財務状況の概要
- 経営者個人の財産状況
この段階では、正確な数字よりも、
どこに問題が潜んでいそうかを把握することが目的になります。
3.課題の洗い出しは四つの視点で行う
現状が見えてきたら、次は課題の整理です。
事業承継における課題は、大きく四つの分野に分けて考えます。
(1)経営上の課題
- 後継者との意識のギャップ
- 社内や取引先の理解
- 経営権の移行時期
(2)法務上の課題
- 遺留分の問題
- 株式の分散
- 定款や議事録の未整備
(3)財務上の課題
- 事業価値の源泉
- 株式や事業用資産の買取資金
- 経営者保証の問題
(4)税務上の課題
- 相続税・贈与税の負担
- 生前贈与の活用余地
- 事業承継税制の検討
重要なのは、税務上の課題を最後に位置付けることです。
税金はあくまで、全体方針を実現するための手段にすぎません。
4.基本方針を決めなければ、制度は選べない
課題を整理した後は、事業承継の基本方針を定めます。
- 親族内承継か
- 親族外承継か
- 第三者承継も視野に入れるのか
この方針が決まらなければ、
どの制度を使うべきか、あるいは使わないべきかを判断することはできません。
事業承継税制や持株会社の手法は、
基本方針が決まった後に検討すべき選択肢です。
5.事業承継計画は「将来の約束事」
最後に策定するのが、事業承継計画です。
事業承継計画とは、単なるスケジュール表ではありません。
- いつ、誰が、どの立場になるのか
- 経営権はいつ移すのか
- 株式や資産はどのように移すのか
こうした内容を、時間軸に沿って整理した
将来に向けた約束事です。
計画を作ることで、
関係者との認識のずれを減らし、
承継を現実的に進めることができます。
結論
事業承継は、順番を誤ると一気に難易度が上がります。
最初に全体像を把握し、課題を整理し、基本方針を定めたうえで、
制度や手法を選ぶことが重要です。
税理士の役割は、制度を当てはめることではなく、
この順番を一緒に整理し、迷走を防ぐことにあります。
次回は、事業承継を進めるうえでの前提条件として、
事業用資産と個人財産をなぜ分けなければならないのかを解説します。
参考
- 東京税理士会 全国統一研修会配布資料
「事業承継業務の進め方」令和7年度
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
