個人事業主やフリーランスの確定申告で、毎年のように悩みの種になるのが「必要経費」です。
これは経費になるはずだと思っていたものが否認された、あるいは逆に、経費にできると知らずに申告していた、という話は決して珍しくありません。
特に問題になりやすいのが、仕事と私生活が混在する支出です。
自宅兼事務所の家賃や光熱費、スマートフォン代、交際費、家族への支払いなどは、判断を誤ると税務調査で指摘を受けやすい分野でもあります。
本シリーズでは、税理士会の研修資料を参考にしながら、
「必要経費」「家事関連費」「青色事業専従者給与」について、制度の考え方から実務上の判断までを体系的に整理していきます。
第1回では、その前提となる「必要経費とは何か」という基本から確認していきます。
必要経費とは何を意味しているのか
所得税における必要経費とは、単に「仕事に使ったお金」という意味ではありません。
所得税は「儲け」に課税する税金であり、売上そのものに課税するものではないからです。
例えば、売上が20万円あっても、その売上を得るために10万円の仕入れや経費がかかっていれば、課税対象となるのは差引き10万円です。
この「売上を得るために必要だった支出」を控除する仕組みが、必要経費という考え方です。
研修資料では、必要経費を認める趣旨について、
「投下した資本の回収部分にまで課税が及ぶことを避けるため」
という整理がされています。
つまり、事業を継続するために不可欠な支出を差し引いた後の成果部分にのみ課税する、という考え方です R07-35+
所得税法37条が定める必要経費の構造
必要経費の基本は、所得税法37条に規定されています。
ここでは、事業所得などに係る必要経費として、次の三つが挙げられています。
- 売上原価
- 総収入金額を得るため直接に要した費用
- 販売費・一般管理費その他、業務について生じた費用
このうち、実務で問題になりやすいのが三つ目の「販売費・一般管理費等」です。
なぜなら、ここには家賃、光熱費、通信費、交際費など、私生活と重なりやすい支出が多く含まれるからです。
なお、条文上は「直接」という言葉は売上原価や直接費にのみ使われており、
一般管理費については「直接」という限定は置かれていません。
この点が、後に裁判例でも重要な意味を持つことになります。
なぜ「全部は経費にならない」のか
個人事業主の場合、法人と異なり、事業活動と生活活動を同一人物が行っています。
そのため、ひとつの支出の中に、事業目的と私的目的が混在することが少なくありません。
例えば、自宅の電気代やスマートフォン代は、
仕事にも使いますが、生活にも使っているのが通常です。
このような支出について、すべてを経費として認めてしまうと、
本来は生活費である部分まで非課税になってしまいます。
そこで所得税法は、「家事費」および「家事関連費」は原則として必要経費に算入しない、というルールを設けています。
一方で、一定の要件を満たす場合には、家事関連費のうち業務に対応する部分のみを経費にできる、という例外も用意されています。
この例外を定めているのが、所得税法施行令96条です。
「必要経費になるかどうか」は感覚では決まらない
必要経費の判断は、「仕事のために使ったつもりかどうか」という主観では決まりません。
税務上は、法律と通達、そして裁判例を踏まえた客観的な判断枠組みによって判断されます。
研修資料では、一般的な経費について、
- 業務との関係
- 業務上の必要性
- 私的部分との区分の可否
といった観点から、段階的に検討すべきであることが示されています。
この判断枠組みを理解せずに「とりあえず経費に入れる」という対応をしてしまうと、
後になって否認され、追徴税額や加算税が発生するリスクもあります。
結論
必要経費とは、「仕事に関係していれば何でも落ちる」というものではありません。
所得税は、事業によって生じた成果に課税する税金であり、
その前提として、どこまでが事業の支出で、どこからが生活の支出なのかを明確に区分する必要があります。
この区分をどう行うのか、
どのような場合に家事関連費が経費として認められるのか、
その具体的な判断基準については、次回以降で詳しく解説していきます。
参考
東京税理士会研修資料
全国統一研修会「必要経費と家事関連費の判断基準」「青色事業専従者給与の留意事項」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

