新卒育成はAI時代に成立するのか――形式知と暗黙知の分断がもたらす課題

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人工知能(AI)の普及は、仕事のやり方だけでなく、人材育成の前提そのものを揺さぶり始めています。国際労働機関(ILO)の分析では、大卒以上の若年層がAIの影響を相対的に強く受ける可能性が示されました。
この指摘は、日本企業が長年続けてきた「新卒一括採用・長期育成モデル」に対して、根本的な問いを突きつけています。AIは新卒育成の代替となり得るのか、それとも育成の空洞化を招くのか。本稿では「形式知」と「暗黙知」という視点から、この問題を整理します。

AIが置き換えるのは「仕事」ではなく「タスク」

ILOの分析で特徴的なのは、AIが職業全体を一気に置き換えるというより、業務の中の特定のタスクを代替・補完していく点です。
特に影響を受けやすいのは、コンピューターを使った定型的・反復的な業務です。コールセンターの初期対応や、資料作成、データ整理などはすでにAIが担いつつあります。
これらは、日本企業において新卒社員が最初に任されてきた仕事でもありました。ここに、AI時代特有の育成上の断絶が生じます。

新卒育成の「入口」が消えるリスク

従来の日本型雇用では、単純作業や雑務を通じて、組織の全体像や仕事の流れを体得することが重視されてきました。
一見すると価値の低い仕事に見えても、そこには暗黙のルール、判断基準、職場の空気といった言語化しにくい知識が詰まっていました。
しかし、こうした業務がAIに置き換えられると、新卒社員は「学ぶための仕事」を失うことになります。即戦力を求める声が高まる一方で、育成のプロセスそのものが成立しにくくなるという矛盾が生じます。

形式知と暗黙知の分断

スタンフォード大学の研究者が指摘するように、AIは形式化された情報、すなわち形式知の処理を得意とします。
一方、人間が経験の中で身につける暗黙知は、言語化やデータ化が難しく、AIが理解することは容易ではありません。
職業経験の少ない若者は暗黙知の蓄積が乏しく、その結果、AIに代替されやすい仕事に集中しやすくなります。これは学歴の高さとは必ずしも一致しません。高学歴であっても、形式知中心の業務に偏れば、AIの影響を強く受けることになります。

ブルーカラービリオネアという逆説

AIに代替されにくい仕事として、配管工や建設作業員などが高収入を得る例が注目されています。これらは高度な暗黙知と現場判断を要する仕事です。
日本ではまだ顕在化していませんが、将来的には「大学は出たが仕事がない」という構図が現実味を帯びる可能性があります。学歴と職業の対応関係が、AIによって再編されつつあるためです。

教育・企業・制度に求められる再設計

AIの進化は、過去の技術革新よりも速く進んでいます。教育制度や企業の人材育成、社会保障制度が追いつかないリスクは無視できません。
企業には、単純業務の自動化と同時に、暗黙知を意識的に伝える育成設計が求められます。教育機関には、形式知の習得だけでなく、実践を通じた学びの機会を組み込む工夫が必要です。
また、政府や労使も含めた議論を通じて、若者が労働市場に円滑に入る経路を再構築する必要があります。

結論

AIは新卒育成を不要にする存在ではありません。しかし、従来型の育成モデルを自動的に維持してくれる存在でもありません。
形式知に偏った仕事はAIに置き換えられやすく、暗黙知の獲得機会がなければ人材は育ちません。
AI時代の人材育成とは、仕事を教えることではなく、学ぶための環境をどう設計するかという問いに変わりつつあります。新卒育成の行方は、日本の雇用と成長の持続性を左右する重要なテーマといえるでしょう。

参考

・日本経済新聞 グローバルオピニオン 新卒育成、AI普及で課題に
・日本経済新聞 形式知か、暗黙知か
・国際労働機関(ILO)AIと労働市場に関する分析
・エリック・ブリニョルフソン氏らによるAIと雇用に関する研究


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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