令和8年度税制改正では、基礎控除の引き上げや高額所得者への課税強化など、個人所得課税に幅広い見直しが行われました。
これらの改正は、本人の税負担だけでなく、将来の相続や家族内の資産移転にも影響を及ぼします。
本稿では、親世代を支える立場にある子世代や、将来相続人となる人の視点から、今回の改正をどのように受け止め、何に注意すべきかを整理します。
1.基礎控除の引き上げがもたらす「見えにくい影響」
基礎控除の引き上げや物価連動の仕組みは、親世代の税負担を緩和し、手元資金を確保しやすくする効果があります。
これは生活の安定という点では好ましい一方で、子世代・相続人の立場から見ると、相続財産の形成ペースに影響を与える可能性があります。
税負担が軽減されることで、親が資産を取り崩さずに生活できる期間が延びる場合もあれば、逆に消費や医療・介護費用に充てられるケースもあります。
結果として、相続時点での財産額は、これまで以上に個別事情によって差が生じやすくなります。
2.高額所得者課税強化と相続設計への波及
超高額所得者に対する負担適正化措置の強化は、対象者こそ限定的ですが、資産家の家庭では相続設計に直接影響します。
親世代が高齢期に入ってからも多額の所得を得ている場合、所得税負担の増加により、資産の圧縮が進む可能性があります。
その結果、相続税の課税対象となる財産が減少する一方で、生前贈与や資産整理のタイミングをどうするかという判断がより重要になります。
子世代としては、「相続税だけ」を見て対策を考えるのではなく、親の所得税負担も含めた全体像を把握する必要があります。
3.ふるさと納税の上限設定と家族内の認識差
ふるさと納税の特例控除額に上限が設けられることで、高所得層にとっての節税効果は限定されます。
これまで親世代が積極的にふるさと納税を活用していた場合、子世代が想定していたほどの「節税余地」が今後は見込めなくなる可能性があります。
家族内で税制改正に対する認識が共有されていないと、相続対策の前提条件そのものがずれてしまうこともあります。
子世代としては、制度変更を踏まえた現実的な見通しを持つことが重要です。
4.暗号資産課税の見直しと相続リスク
暗号資産取引に対する分離課税の導入は、親世代の投資行動を変える可能性があります。
税率が明確化されることで、高齢期に暗号資産投資へ参入するケースも想定されます。
しかし、暗号資産は価格変動が大きく、管理方法も特殊です。
相続人がウォレット情報や取引履歴を把握できていなければ、相続手続きが著しく困難になるおそれがあります。
子世代としては、資産の種類だけでなく、「引き継げる状態になっているか」という視点での確認が不可欠です。
5.未成年向けNISAと「次世代支援」の形の変化
未成年者も利用できるNISA制度の拡充は、祖父母世代から孫世代への支援の形を変える可能性があります。
一方で、教育資金一括贈与の非課税措置が終了することで、「一時的な資金移転」から「長期運用を通じた支援」へと軸足が移ります。
子世代としては、親からの支援や贈与を受け取る立場であると同時に、自身が次世代へどうつないでいくかを考える立場にもなります。
制度変更を踏まえ、家族内での役割分担や考え方の整理が求められます。
6.子世代に求められるのは「税制理解」より「対話」
今回の個人所得課税改正は、内容が複雑で、親世代がすべてを正確に理解するのは容易ではありません。
その結果、税負担や相続への影響について誤解が生じることもあります。
子世代・相続人にとって重要なのは、制度そのものを詳しく説明することよりも、親の収入状況や資産構成、考え方を把握し、対話を重ねることです。
税制改正は、そのきっかけとして活用するのが現実的です。
結論
個人所得課税の改正は、親世代の税負担を通じて、間接的に子世代・相続人にも影響を及ぼします。
基礎控除の引き上げや課税強化、投資環境の変化は、相続財産の規模や内容、引き継ぎ方に影響を与える要素です。
子世代に求められるのは、早い段階から家族内で状況を共有し、制度変更を前提とした現実的な準備を進めることです。
税制改正を「自分には関係ない話」とせず、家族全体の問題として捉える視点が、これからの時代には欠かせません。
参考
・税のしるべ 2026年1月26日号
・令和8年度税制改正大綱(個人所得課税関係)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
