令和8年度税制改正では、働く現役世代を意識した基礎控除や給与所得控除の引き上げが注目されています。一方で、年金を主な収入源とする高齢者にとって、今回の個人所得課税改正はどのような意味を持つのでしょうか。
本稿では、年金世代・高齢者の立場から、今回の改正が家計や税負担、資産管理にどのような影響を及ぼすのかを整理します。
1.基礎控除の引き上げは年金世代にも恩恵がある
今回の改正では、基礎控除が引き上げられるとともに、物価に連動して見直す仕組みが導入されました。
基礎控除は給与所得者だけでなく、年金所得者を含むすべての個人に適用される控除であるため、年金世代にとっても直接的なメリットがあります。
特に、公的年金とわずかな副収入を組み合わせて生活している高齢者にとっては、課税最低限の引き上げにより、所得税や住民税の負担が軽減されるケースが想定されます。
物価上昇が続く中で、控除額が固定されたままでは実質的な増税となりがちでしたが、今回の制度改正は、そうした負担の増加を抑える方向性を示したものといえます。
2.「給与所得控除中心」の改正構造への留意
もっとも、今回の改正の中心は、基礎控除と並んで給与所得控除の引き上げです。
給与所得控除は年金所得には直接適用されないため、現役で働く人に比べると、年金世代が受ける恩恵は相対的に限定的となります。
高齢期に再就職や短時間就労を行っている場合には一定の効果がありますが、年金のみで生活している層にとっては、「制度全体が現役世代寄り」である点は意識しておく必要があります。
3.ふるさと納税の上限設定と年金世代
今回の改正では、ふるさと納税の特例控除額に上限が設けられます。
この上限は、給与収入で1億円相当の高所得者を主な対象としており、多くの年金世代には直接の影響はありません。
ただし、資産運用や不動産収入などにより、年金以外の所得が多い高齢者の場合、これまで有効な節税手段として活用してきたふるさと納税の効果が制限される可能性があります。
高齢期における寄附行動や税負担の在り方が、より制度趣旨に即した形に整理されていく流れといえます。
4.超高額所得者課税と「資産家高齢者」への影響
極めて高い水準の所得に対する負担適正化措置の見直しは、対象者が大きく絞られているものの、年金世代の一部には無関係とはいえません。
長年の事業経営や資産形成により、巨額の所得を得ている高齢者の場合、今回の見直しにより、追加的な税負担が生じる可能性があります。
高齢期に入ってからの税負担増は、生活費そのものよりも、相続や資産承継の設計に影響を与える点に注意が必要です。
5.暗号資産課税の見直しと高齢期の投資行動
暗号資産取引に対する分離課税の導入は、若年層だけでなく、高齢者の投資行動にも影響を与えます。
これまで税率の高さから参入をためらっていた層にとって、税負担が明確化されることは心理的なハードルを下げる要因となります。
一方で、高齢期における投資は、税制メリットだけで判断すべきものではありません。価格変動の大きさや相続時の評価、管理体制なども含め、慎重な判断が求められます。
6.未成年向けNISA拡充と祖父母世代の役割
未成年者も利用できるNISA制度の拡充は、年金世代にとっても無関係ではありません。
祖父母世代が孫の将来を見据えた資産形成を考える際、新たな選択肢となります。
一方で、教育資金一括贈与の非課税措置が終了することから、「贈与による一時的な支援」から「運用を通じた長期的支援」へと、考え方の転換が求められる局面ともいえます。
結論
今回の個人所得課税改正は、年金世代・高齢者にとって一律に有利、あるいは不利といえるものではありません。
基礎控除の引き上げや物価連動の仕組みは一定の安心材料となる一方で、制度全体は現役世代中心に設計されている点も明確です。
高齢期においては、「税金を減らす」こと以上に、生活の安定、資産の管理、次世代への承継をどう設計するかが重要となります。
税制改正をきっかけに、自身の収入構造や資産状況を見直すことが、これからの時代における実践的な対応といえるでしょう。
参考
・税のしるべ 2026年1月26日号
・令和8年度税制改正大綱(個人所得課税関係)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
