住宅価格の高騰、空き家の増加、医療費・介護費の膨張、社会保障費を巡る対立。
一見すると別々の問題に見えるこれらのテーマは、実は一本の線でつながっています。
本シリーズでは、「住宅」という視点から、年金世代・現役世代双方が直面している社会保障の構造問題を整理してきました。
この総まとめでは、個別論点を振り返りながら、なぜ住宅が社会保障の核心になり得るのかを改めて整理します。
住宅価格高騰は「市場の問題」ではなく「構造の問題です
住宅価格の高騰は、単なる需要過多や投機の結果ではありません。
建設費の上昇、新築供給の減少、新築偏重の制度設計が重なり、価格が下がりにくい構造が作られてきました。
その結果、住宅取得は一部の高所得層に偏り、住居費は多くの世帯にとって重い固定費となっています。
ここで重要なのは、「家を買えるかどうか」という問題が、生活全体の安定性に直結している点です。
空き家は「問題」ではなく「眠った資源です
住宅市場が逼迫する一方で、空き家は増え続けています。
この矛盾は、固定資産税をはじめとする制度が「使わなくても持ち続けた方が得」な構造を作ってきた結果です。
空き家税や空室税は、その構造を動かすための一つの手段に過ぎませんが、重要なメッセージを含んでいます。
それは、住宅を保有すること自体ではなく、「使われていること」に価値を置くという転換です。
住宅ローン減税は誰を支えてきたのか
住宅ローン減税は、多くの人の住宅取得を支えてきました。
しかし同時に、この制度は「ローンを組める人」「税を十分に納めている人」を前提に設計されてきました。
住宅価格が高騰する中で、減税は価格を下支えし、取得できる層とできない層の差を広げる側面も持っています。
制度そのものが悪いのではなく、住宅を「買うこと」に重心を置き続けてきた点に、見直しの余地があります。
年金世代の住宅問題は「取得」ではなく「継続」です
年金世代にとって、住宅の問題は新築取得ではありません。
今の住まいに安全に住み続けられるか、将来住み替えや整理ができるかという現実的な課題です。
段差、断熱、修繕費、固定資産税、管理費。
これらは老後の家計と健康に直結しますが、従来の住宅政策では周辺扱いされてきました。
住宅は医療・介護の前提条件です
在宅医療や地域包括ケアが進まない背景には、住宅の問題があります。
住環境が整っていなければ、医療や介護の制度がどれほど整っていても機能しません。
住宅改修は単なる快適性向上ではなく、転倒や体調悪化を防ぐ「介護予防」であり、「医療費抑制策」でもあります。
住宅は、医療・介護の外側にあるのではなく、その土台です。
医療費を抑える一番安い方法は住宅でした
医療費は、病気になってから抑えようとしても限界があります。
本当に効果が高いのは、医療が必要になる前の生活環境への投資です。
住宅への適切な投資は、入院や要介護状態への移行を遅らせ、結果として社会保障費全体を抑える力を持ちます。
これは「削減」ではなく、「増えにくくする」発想です。
社会保障費を巡る議論が噛み合わない理由
社会保障費を減らすという言葉は、給付削減への恐怖と直結しやすく、強い反発を招きます。
しかし本来問うべきなのは、どこにお金を使えば将来の負担が軽くなるのかという点です。
住宅、予防、生活基盤への支出は、長期的には社会保障費を抑える「質の高い支出」と言えます。
この視点が欠けたままでは、議論は対立から抜け出せません。
年金世代の沈黙が示しているもの
年金世代は、社会保障の最大の受益者であると同時に、その限界も実感している世代です。
だからこそ、「守れ」とも「減らせ」とも単純に言えず、沈黙を選んでいる人が少なくありません。
その沈黙は無責任ではなく、制度を次の世代につなぎたいという複雑な思いの表れです。
年金世代の本音を排除せずに聞くことが、社会保障の議論を前に進める鍵になります。
住宅から始める社会保障再設計という選択
住宅は、年金世代と現役世代を分断するテーマではありません。
むしろ、生活の質、医療費、介護負担、空き家問題、地域の持続性を同時に改善し得る共通基盤です。
「買う支援」から「住み続ける支援」へ。
「削る議論」から「構造を変える議論」へ。
住宅から社会保障を見直すことは、その第一歩になります。
結論
本シリーズで見てきたように、住宅は単なる不動産や個人資産ではありません。
社会保障の持続可能性を左右する、生活インフラそのものです。
住宅をどう使い、どう整え、どう循環させるか。
この問いに向き合うことが、年金世代にも現役世代にも共通する課題になっています。
社会保障の未来を考えるとき、住宅から考える視点を欠かすことはできません。
参考
・日本経済新聞「住宅価格高騰、対策はある? 空き家有効活用後押しを」
・日本経済新聞「地方自治体は独自対策も」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

