医療費の増加は、長年にわたって日本の大きな課題とされてきました。
高齢化の進展に伴い、医療・介護費は今後も増え続けると見込まれています。そのたびに「負担をどう分かち合うか」「給付をどう抑えるか」という議論が繰り返されてきました。
しかし、医療費を抑える方法は、給付削減や自己負担増だけではありません。もっと根本的で、しかも費用対効果の高い手段があります。それが「住宅」です。
医療費は突然増えるわけではありません
医療費は、ある日突然膨らむものではありません。
転倒による骨折、寒さによる体調悪化、慢性的な関節痛や循環器系の不調など、日常生活の中で積み重なった小さな要因が、やがて医療や介護の利用につながっていきます。
その多くは、生活環境、とりわけ住環境と密接に関係しています。
住宅は健康を左右する生活インフラです
住宅は、単なる「住む場所」ではありません。
室温、段差、動線、照明、騒音といった要素は、身体機能や健康状態に直接影響します。
寒暖差の大きい住宅は血圧の変動を招きやすく、転倒しやすい構造は骨折のリスクを高めます。
つまり、住宅は健康を守るインフラであり、医療費の発生に大きく関与しているのです。
「治療」よりも「予防」の方が安い
医療政策では、予防の重要性が繰り返し指摘されています。
生活習慣病対策や健康診断の充実は、その代表例です。
しかし、住環境の改善は、これらと同じか、それ以上に効果的な予防策であるにもかかわらず、十分に注目されてきませんでした。
段差をなくす、断熱性能を高める、適切な照明を確保する。これらは比較的少ない投資で、将来の医療費や介護費の増加を防ぐ可能性があります。
住宅改修は「医療費削減投資」です
住宅改修というと、個人の快適性向上や資産価値の話に矮小化されがちです。
しかし、医療・介護の視点から見れば、住宅改修は立派な社会保障投資です。
転倒による入院や要介護化を防げれば、その分の医療費・介護費は発生しません。
病院や施設にかかる費用に比べれば、住宅改修にかかる費用は決して高くありません。
なぜ住宅への投資は後回しにされるのか
それでもなお、住宅への投資は医療・介護政策の中で後回しにされがちです。
理由の一つは、住宅が「自己責任の領域」とされてきたからです。
医療や介護は公的制度で支える一方、住まいは個人が何とかするものという考え方が根強く残っています。
しかし、住環境が原因で医療・介護費が増えれば、その負担は結局、社会全体で背負うことになります。
病院に入ってからでは遅いという現実
医療費対策は、どうしても「病気になってから」「介護が必要になってから」の議論になりがちです。
しかし、その段階では選択肢は限られ、コストも高くなります。
住宅という生活基盤に目を向けることで、そもそも医療や介護が必要になる時期を遅らせることができます。
これは、医療の質を下げる話ではなく、医療を必要としない期間を延ばすという発想です。
年金世代にとっての現実的な対策
年金世代にとって、医療費の増加は家計に直結する問題です。
収入が限られる中で、医療費や介護費が増えれば、生活の余裕は急速に失われます。
その意味で、住宅改修や住環境の改善は、老後の家計を守る手段でもあります。
医療費を抑える最も現実的な方法が、日々の生活環境を整えることだという点は、もっと共有されるべきです。
結論
医療費を抑える一番安い方法は、医療の現場だけにあります。
それは、病院に行く前、介護が必要になる前の「住宅」にあります。
住環境を整えることは、個人の安心につながるだけでなく、医療・介護制度の持続可能性を高める行為です。
医療費対策を本気で考えるのであれば、住宅を社会保障の一部として位置づけ直す視点が欠かせません。
「治す医療」だけでなく、「医療を必要としない生活」を支える政策こそが、これから求められているのではないでしょうか。
参考
・日本経済新聞「住宅価格高騰、対策はある? 空き家有効活用後押しを」
・日本経済新聞「地方自治体は独自対策も」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
