在宅医療が進まない本当の理由は住宅にある――制度の隙間に置き去りにされた住環境

FP
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高齢化が進む中で、国は「可能な限り自宅で暮らし続ける」ことを医療・介護政策の基本方針として掲げてきました。在宅医療や訪問看護の充実は、その象徴です。
しかし現実を見ると、在宅医療は期待されたほど広がっていません。医師や看護師の不足、家族の負担、地域差などが理由として挙げられますが、もう一つ見落とされがちな要因があります。それが「住宅」です。本稿では、在宅医療が進まない背景にある住環境の問題を整理します。

在宅医療は住宅を前提とした医療です

在宅医療は、病院の機能をそのまま自宅に移すものではありません。患者の生活空間に医療行為が入り込む形で成り立つ医療です。
そのため、住宅の構造や設備は在宅医療の可否を大きく左右します。段差の多さ、廊下や出入り口の狭さ、医療機器を置くスペースの有無、電源容量や室温管理のしやすさなど、住環境は医療の質と安全性に直結します。

医療制度は整っても住宅は変わっていません

在宅医療に関する診療報酬や制度は、年々整備されてきました。在宅療養支援診療所や訪問看護ステーションの制度も拡充されています。
一方で、住宅政策はこうした変化に十分対応してきたとは言えません。多くの住宅は、健康な現役世代が暮らすことを前提に設計されており、医療や介護を受けながら生活することは想定されていません。
制度と住環境の間にあるこのギャップが、在宅医療の広がりを妨げています。

医療者側の負担を生む住環境

在宅医療が進まない理由として、医療者の負担の大きさがよく指摘されます。
しかし、その負担の一部は住宅環境に起因しています。機材を運び入れにくい、作業スペースが確保できない、動線が複雑で安全性に不安があるといった状況は、診療時間の長期化や事故リスクの増加につながります。
結果として、医療者が在宅医療に消極的にならざるを得ない場面も生じています。

家族の不安も住宅から生まれます

在宅医療を選択するかどうかは、本人だけでなく家族の判断にも左右されます。
「この家で本当に医療を受け続けられるのか」「急変時に対応できるのか」といった不安は、住環境が整っていないほど大きくなります。
住宅への不安が、結果として入院の長期化や施設入所を選ばせる要因になるケースも少なくありません。

住宅改修は在宅医療のインフラです

在宅医療を進めるうえで不可欠なのが住宅改修です。
段差の解消や手すりの設置だけでなく、電源容量の確保、医療機器を設置するスペースの確保、室温管理の改善などが求められます。
これらは医療行為そのものではありませんが、在宅医療を支えるインフラと言えます。
しかし、住宅改修への支援は、医療制度の中で十分に位置づけられているとは言えません。

病院依存のコスト構造を温存しています

在宅医療が進まなければ、入院や施設利用への依存は続きます。
本来であれば、住環境を整えることで防げる入院や長期療養も少なくありません。
住宅への投資を後回しにすることは、結果として医療・介護費の増加を容認しているのと同じ構造になります。

「住宅は自己責任」という発想の見直し

これまで住宅は、個人の責任に委ねられる分野とされてきました。
しかし、住環境が原因で医療・介護費が増えるのであれば、住宅政策を社会保障の一部として捉え直す必要があります。
在宅医療を本気で進めるのであれば、住宅改修を医療・介護政策の延長線上に位置づける視点が欠かせません。

結論

在宅医療が進まない本当の理由は、医療制度の不備ではなく、住宅がその前提条件を満たしていない点にあります。
制度だけを整えても、住まいが変わらなければ在宅医療は定着しません。
住宅を「医療を受ける場」として再設計することが、在宅医療の普及と医療・介護制度の持続可能性を左右すると言えるでしょう。

参考

・日本経済新聞「住宅価格高騰、対策はある? 空き家有効活用後押しを」
・日本経済新聞「地方自治体は独自対策も」


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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