給付付き税額控除とクロヨンの壁― 公平な再分配を阻む日本型制度の限界 ―

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衆院選を前に、与野党がそろって掲げている政策の一つが「給付付き税額控除」です。
所得税を減らすだけでなく、税額控除しきれない部分は現金で給付する仕組みであり、手取りを直接増やす政策として注目を集めています。

一見すると合理的で公平な制度に見えますが、日本で導入する際には避けて通れない根本的な問題があります。それが、いわゆる「クロヨン」と呼ばれる所得捕捉率の格差です。

給付付き税額控除とは何か

給付付き税額控除は、税額控除と現金給付を組み合わせた制度です。
所得が低く、そもそも納税額が少ない人でも、控除しきれない分を給付として受け取れる点が特徴です。

所得再分配を強化しつつ、就労を促す仕組みとして、海外では社会保障制度と一体で運用されている例もあります。制度設計次第では、減税よりも的確な支援が可能になります。

しかし、この制度は「正確な所得把握」が前提となります。

クロヨンとは何か

クロヨンとは、職業による所得捕捉率の違いを表した言葉です。
一般に、
・会社員は約9割
・自営業者は約6割
・農林水産業従事者は約4割
とされてきました。

会社員は源泉徴収により、収入がほぼ自動的に税務当局に把握されます。一方で、自営業者は経費計上の裁量が広く、現金取引も多いため、実態として所得が見えにくくなりがちです。

この構造が残ったまま給付付き税額控除を導入すると、同じ実態所得でも、職業によって受けられる給付額に差が生じるおそれがあります。

公平な支援が不公平になる危うさ

給付付き税額控除は、所得が低い人ほど支援が厚くなる設計です。
しかし、所得の把握精度に差があれば、実際には十分な収入がある人が、過大な支援を受けてしまう可能性があります。

逆に、複数の単発業務を請け負う人や、収入が不安定な働き方をしている人が、制度の網から漏れるおそれもあります。

制度自体が悪いのではなく、前提条件が整っていないことが問題なのです。

非課税世帯偏重の限界

これまでの給付政策は、住民税非課税世帯を対象にするケースが多く見られました。
自治体が対象を把握しやすく、申請不要の給付が可能だからです。

しかし、非課税世帯の多くは高齢者世帯であり、年金特有の控除により課税所得が低く算定されている場合もあります。
一方で、現役世代の課税世帯や単身世帯は、実際に負担が重くても支援対象から外れやすい構造があります。

給付付き税額控除は、この歪みを是正する切り札として期待されていますが、クロヨン問題を放置したままでは、別の不公平を生みかねません。

本質的な解決に必要な視点

本当に必要なのは、制度の名称ではなく、基盤の整備です。
税と社会保険のデータを一元化し、所得をできるだけ正確に把握する体制を整えることが欠かせません。

また、所得だけでなく、就労状況や生活実態をどう反映させるかも重要です。
目的を明確にしないまま制度だけを導入すれば、過去と同じ議論を繰り返すことになります。

結論

給付付き税額控除は、うまく設計されれば、減税よりも公平で柔軟な支援策になり得ます。
しかし、日本ではクロヨンという構造的問題が長年放置されてきました。

この壁を越えない限り、給付付き税額控除は「公平を目指して不公平を生む制度」になりかねません。
制度論の前に、所得捕捉と行政基盤の精度向上が問われています。

参考

・日本経済新聞 朝刊「給付付き控除『クロヨン』の壁」2026年1月26日
・厚生労働省「国民生活基礎調査(2024年)」

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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