経費の不正請求はなぜ起きるのか― 中小企業にこそ必要な内部統制の考え方 ―

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経費の不正請求というと、大企業の粉飾決算や横領事件を思い浮かべる人も多いかもしれません。しかし実務の現場では、むしろ中小企業のほうが不正が起きやすい環境に置かれていると感じることがあります。
人手不足、長年の慣習、担当者への過度な信頼。こうした要素が重なると、「悪意がなくても不正が成立してしまう」構造が生まれます。
本稿では、経費の不正請求で実際に見られる典型的な手口を整理したうえで、中小企業でも現実的に導入できる内部統制の考え方を整理します。

経費の不正請求が企業にもたらす影響

経費の不正請求は、単なる金額の問題にとどまりません。
第一に、会社の資金が不正に流出することで財務体質が弱体化します。
第二に、不正が発覚した場合、従業員間の信頼関係が大きく損なわれます。
さらに、税務調査において不正経費が指摘されれば、追徴課税や加算税のリスクも生じます。
経費管理の問題は、企業の信用と持続性に直結するテーマだといえます。

経費の不正請求でよくある手口

架空取引による不正請求

もっとも典型的なのが、架空の取引先を使った請求です。
実在しない会社や、実体のないペーパーカンパニーを取引先として設定し、コンサルティング料などの名目で請求書を発行させます。会社が支払った代金は、実質的に従業員本人の懐に入る仕組みです。
請求書や契約書の形式が整っていると、経理担当者が違和感に気づきにくい点が特徴です。

カラ出張

実際には出張していない、または出張費がほとんど発生していないにもかかわらず、交通費や宿泊費を請求するケースです。
在宅勤務が増えた現在では、出張や外出の実態確認が甘くなりやすく、発覚が遅れる傾向があります。

水増し取引

実際の取引は存在するものの、請求金額を不当に引き上げる手口です。
取引先と共謀し、通常より高額な請求を行わせ、差額をキックバックとして受け取るケースもあります。
形式上は正規の取引であるため、不正と見抜くのが難しい点が問題です。

通勤手当の不正請求

住所変更を届け出ず、実際よりも遠い通勤経路で定期代を申請するなど、比較的少額でも継続的に不正が行われやすい分野です。
長年の慣行としてチェックされないまま支給されているケースも少なくありません。

私的費用の付け替え

本来は個人的な飲食代や支出であるにもかかわらず、会議費や交際費として会社に請求するケースです。
金額が小さいため見逃されがちですが、積み重なると大きな問題になります。

不正を防ぐための内部統制の基本原則

会計と出納を分ける

内部統制の基本は、「一人にすべてを任せない」ことです。
会計処理と実際の支払いを同一人物が担当すると、不正が起きても帳簿上は整合してしまい、発覚が遅れます。
人手が限られる中小企業でも、この分離は最優先で考えるべきポイントです。

購買と支払いを分ける

物品やサービスの発注を行う人と、支払いを行う人を分けることも重要です。
発注から支払いまでを一人で完結できる体制は、架空取引や水増し取引を容易にします。

相見積りを形骸化させない

相見積りは、価格の妥当性を確認するための有効な手段です。
ただし、購買担当者自身が見積りを操作できる状態では意味がありません。
第三者の目が入る仕組みを整えることが重要です。

証憑と実態を結びつける

領収書や請求書があることと、取引の実態があることは別問題です。
出張であれば移動記録や宿泊証憑、通勤手当であれば定期券の写しなど、実態を確認できる資料の提出を求めることが効果的です。

中小企業にとって現実的な内部統制とは

内部統制という言葉から、大がかりな制度やマニュアルを想像する必要はありません。
重要なのは、「不正が起きにくい流れを作ること」と「必ず誰かの目が入ること」です。
完璧な制度を作るよりも、会社の規模や人員に合った形で、できることから積み重ねることが現実的な対応といえます。

結論

経費の不正請求は、特別な悪意がなくても、環境次第で誰でも手を染めてしまう可能性があります。
だからこそ、個人の善意に頼るのではなく、仕組みで防ぐ発想が重要です。
内部統制は会社を縛るためのものではなく、経営者と従業員の双方を守るための装置です。
自社の経費処理の流れを一度点検し、「一人に任せきりになっていないか」を確認することから始めてみてはいかがでしょうか。

参考

・『企業実務』2025年11月号
 森智幸「経費の不正請求を防ぐ『内部統制システム』のつくり方」


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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