いま経営が順調で、売上や利益も安定している。
そのような状況にあると、研究開発への支出は後回しにされがちです。研究開発は成果がすぐに見えにくく、失敗の可能性もあります。とくに中小企業では、資金繰りを優先するあまり、研究開発費を削る判断が行われることも少なくありません。
しかし、研究開発を行わない企業は、将来にわたって同じ状態を維持できるとは限りません。市場環境や顧客ニーズは常に変化しており、その変化に対応できない企業は、徐々に競争力を失っていきます。
本稿では、研究開発費の意味と会計上の考え方、さらに中小企業にとって研究開発がなぜ不可欠なのかを整理します。
研究開発費とは何か
研究開発費とは、研究および開発を行うために支出した費用を指します。
研究とは、新しい知識の発見を目的とした計画的な調査や探求です。一方、開発とは、研究成果や既存の知識をもとに、新しい製品やサービス、生産方法などを具体化するための計画や設計をいいます。
重要なのは、単なる改良や軽微な改善は研究開発に含まれない点です。まったく新しい価値を生み出す、あるいは既存のものを著しく改良する取り組みが研究開発に該当します。
研究開発費の会計処理の基本
研究開発費は、原則として販売費及び一般管理費として処理されます。
研究開発は長期にわたることが多く、成果が不確実であるため、支出した時点で費用処理するのが基本です。
ただし、製造現場で行われる研究開発の場合、製造原価に含めて処理されることもあります。実務では、試作品の製作費、人件費、材料費などが、消耗品費や原材料費に紛れて計上されてしまうケースも見受けられます。
研究開発に関する支出は、できる限り区分して把握することが重要です。
研究開発を行う企業と行わない企業の差
中小企業白書のデータを見ると、研究開発を継続して行っている企業と、行っていない企業では、売上高や経常利益の推移に明確な差が生じています。
一定期間、研究開発を実施している企業の方が、売上高・利益ともに伸びやすい傾向が確認されています。
もちろん、研究開発費を支出すれば必ず業績が向上するわけではありません。しかし、研究開発をまったく行わない企業は、成長の機会を自ら放棄しているともいえます。
非製造業でも研究開発は不可欠
研究開発という言葉から、製造業をイメージする方は多いかもしれません。しかし、非製造業にも研究開発は存在します。
飲食業であれば新メニューの開発、小売業であればオリジナル商品の企画、宿泊業やサービス業であれば新たなサービス提供の仕組みづくりも研究開発に含まれます。
現在の顧客に、どのような新しい価値を提供できるのか。この視点で考えること自体が、研究開発の第一歩といえます。
中小企業が研究開発を続けるための現実的な考え方
中小企業は、ヒト・モノ・カネといった経営資源に制約があります。
資金繰りが厳しい状況で、大きな研究開発投資を行うのは現実的ではありません。そのため、いきなり多額の予算を確保する必要はありません。
まずは、既存の設備や人材を活用し、小規模な試作やテストから始めることが有効です。手応えを感じた段階で、段階的に予算を拡大していく考え方が現実的です。
経理担当者にできること
経理担当者は、研究開発の内容そのものに口出しする立場ではありません。しかし、研究開発の重要性を経営者に伝える役割を担うことはできます。
中小企業白書などの客観的な資料を用い、研究開発を行っている企業とそうでない企業の違いを示すことは有効です。
また、研究開発費には税制上の優遇措置があり、一定額を法人税額から控除できる制度もあります。節税効果という観点から説明することで、経営者の理解を得やすくなる場合もあります。
研究開発予算は業績に関係なく確保する
研究開発は、短期的な成果を期待するものではありません。
利益が出そうだから研究開発費を使う、赤字になったから削減する、といった判断では、継続的な成果は得られません。
研究開発は長期的な取り組みであり、原則として業績に関係なく、一定額を継続的に確保する姿勢が重要です。
結論
研究開発費は、余裕がある企業だけが使う特別な支出ではありません。
企業が将来にわたって存続し、変化に対応し続けるために不可欠な投資です。製造業に限らず、すべての中小企業にとって研究開発は経営戦略の一部といえます。
小さく始め、継続する。その積み重ねが、数年後の企業の姿を大きく左右します。
参考
・企業実務 2025年12月号
瀬野正博「企業の存続に不可欠な研究開発費」
・中小企業庁「中小企業白書 2025年版」
※本原稿は、企業実務誌掲載記事を参考に、内容を整理・補足したものです。
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

