今回の衆院選では、与野党のほぼすべてが消費税減税を公約に掲げました。減税は有権者にとって分かりやすく、即効性がある政策として支持を集めやすい一方で、財政の持続可能性との緊張関係を常に伴います。
世界的にも「減税ポピュリズム」と呼ばれる現象が広がるなか、日本の置かれた財政状況は他国とは大きく異なります。本稿では、海外事例と足元の市場動向、政府の説明を整理しながら、日本における減税議論の構造的なリスクを考えます。
世界で進む減税競争と市場の反応
減税を掲げる選挙戦は、日本特有の現象ではありません。米国では、2024年の大統領選で共和党候補だったドナルド・トランプ氏が大規模減税の恒久化を主張しました。一方、民主党側も中低所得層向けの減税延長を掲げ、負担軽減を競う構図となりました。
英国では2022年、保守党党首選で大型減税を掲げたトラス政権が誕生しましたが、財源の裏付けが乏しい政策に市場が強く反応し、国債価格の急落と通貨安を招きました。いわゆる「トラス・ショック」は、財政規律と市場の信認が崩れた際の影響の大きさを示す象徴的な事例です。
日本の減税議論が抱える特殊性
同じ減税競争であっても、日本の前提条件は他国と大きく異なります。日本の政府債務残高はGDP比で230%前後と、主要先進国の中でも突出しています。この水準では、減税の是非そのものよりも「市場がどう受け止めるか」が政策の成否を左右します。
足元では長期金利の上昇や円安傾向が同時に進行しており、財政への警戒感が市場に意識され始めています。減税が恒久措置と受け取られれば、国債市場や為替市場を通じて、日本経済全体に波及する可能性があります。
政府の説明と「責任ある積極財政」
こうした中で、高市早苗首相は、減税を「時限的措置」と位置づけ、特例公債に頼らず財源を確保する姿勢を強調しています。具体的には、租税特別措置の見直しや税外収入の活用、補助金整理などを挙げ、2年間限定であれば対応可能だと説明しています。
また、中低所得者対策の本命として「給付付き税額控除」を掲げ、減税はあくまでその制度が整うまでの橋渡しだとしています。財政の持続可能性に配慮していることを、海外市場に対しても丁寧に発信していく必要性を政府自身が認めている点は重要です。
選挙周期とポピュリズムの相性
日本では短い選挙周期が続いており、負担を伴う中長期政策よりも、即効性のある政策が選好されやすい構造があります。消費税減税は、その象徴的なテーマです。
しかし、減税の「わかりやすさ」と引き換えに、財源論や将来世代への影響が後景に退くと、市場との距離感が一気に広がるリスクがあります。英国の事例が示すように、財政への信認は一度揺らぐと、短期間で回復するものではありません。
結論
減税そのものが直ちに誤りであるとは言えません。問題は、その位置づけと説明の仕方です。日本のように高い債務水準を抱える国では、減税は「人気取り政策」と受け取られないよう、財源・期間・代替政策を一体で示す必要があります。
選挙を通じて減税が争点化する今こそ、財政規律と成長戦略をどう両立させるのかという本質的な議論が求められています。市場との対話を軽視した政策は、結果的に国民生活への負担として跳ね返る可能性があることを、冷静に見極める必要があるでしょう。
参考
・日本経済新聞「減税ポピュリズム、世界で 日本、財政厳しく危うさ」
・日本経済新聞「〈各党に聞く〉自民・高市早苗総裁 減税『特例公債に頼らず』」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

