分譲マンションにおける漏水トラブルは、築年数の経過とともに珍しいものではなくなっています。特に外壁や配管などの共用部に起因する漏水は、被害を受けた区分所有者にとって深刻な問題です。一方で、誰がその責任を負うのかについては、これまで必ずしも明確ではありませんでした。
2026年1月、共用部の不具合による漏水被害について、管理組合に損害賠償責任があると判断した最高裁判決が示されました。管理組合の賠償責任を正面から認めた初の判断とされており、今後のマンション管理実務や区分所有者の権利関係に大きな影響を与えるものです。
本稿では、この判決のポイントを整理し、管理組合・区分所有者それぞれにとって何が変わるのかを考えていきます。
最高裁判決の概要
今回争われたのは、分譲マンションの共用部である外壁の管理不備により、区分所有者の専有部分に漏水被害が生じた場合、管理組合が民法上の損害賠償責任を負うのかという点です。
原審である東京高裁は、共用部の占有者は管理組合ではなく区分所有者全員であるとして、管理組合の賠償責任を否定しました。しかし、上告審である最高裁判所第1小法廷は、この判断を覆しました。
最高裁は、区分所有法の仕組みを踏まえ、管理組合は共用部の管理について中心的な役割を担う団体であり、特段の事情がない限り、共用部の管理の瑕疵による損害の発生を防止すべき地位にあると指摘しました。その上で、管理組合が占有者に当たるとして、管理組合に賠償責任が生じ得ることを明確にしました。
なぜ「管理組合」が責任主体とされたのか
最高裁が重視したポイントは、管理組合の実質的な役割です。
管理組合は、全ての区分所有者で構成され、管理費を徴収し、共用部の維持管理や修繕の方針を集会で決定します。つまり、共用部をどのように管理するかについて、現実に意思決定を行い、実行している主体は管理組合であるという整理です。
もし管理組合に責任がないとすれば、被害を受けた区分所有者は、他の全区分所有者一人ひとりを相手に損害賠償請求を行う必要が生じます。これは現実的ではなく、被害回復の道を事実上閉ざしてしまいます。最高裁は、そのような結論は区分所有者の通常の意思にも、被害者保護の観点にも反すると判断しました。
管理組合の財政への影響という懸念
一方で、管理組合側は、賠償責任を認めれば管理資金が枯渇し、必要な修繕ができなくなるという懸念を示していました。この点は、実務上も無視できない問題です。
特に老朽マンションでは、修繕積立金が不足しているケースも多く、漏水被害が発生した場合に多額の賠償金を支払う余力がない管理組合も少なくありません。今回の判決は、管理組合に対して責任を明確にした一方で、資金確保という課題をより鮮明にしたとも言えます。
保険による備えの重要性
共用部に起因する賠償リスクへの備えとして、管理組合が加入する保険の活用が重要になります。代表的なものとして、管理組合向けの火災保険に付帯できる施設賠償責任保険があります。
この保険は、共用部の管理に起因して第三者に損害を与えた場合に、一定の限度額まで損害賠償金を補填するものです。ただし、加入率は必ずしも高くなく、共用部の管理状態が悪いマンションでは、保険料が高額になったり、加入自体を断られたりする場合もあります。
今回の最高裁判決を踏まえると、保険未加入の管理組合は、リスク管理の見直しを迫られる可能性が高いといえるでしょう。
区分所有者にとっての意味
区分所有者の立場から見れば、今回の判決は大きな意味を持ちます。共用部の管理不備による被害について、管理組合に対して直接責任を追及できる道が開かれたからです。
同時に、管理組合の財源は管理費や修繕積立金で賄われているという現実も忘れてはなりません。賠償責任が発生すれば、その負担は最終的に区分所有者全体に及ぶことになります。自分が被害者になる可能性と、将来の負担者になる可能性の両方を意識した関与が求められます。
結論
今回の最高裁判決は、老朽化が進むマンションにおいて、共用部を適切に管理する管理組合の責任を明確に示したものです。被害を受けた区分所有者の救済という点では大きな前進といえます。
一方で、管理組合の財政基盤や保険加入のあり方、修繕の意思決定をどう進めるかといった課題も、これまで以上に重要になります。マンションは「買って終わり」ではなく、共同で維持していく財産です。この判決は、その現実を改めて突きつけた司法判断であるといえるでしょう。
参考
・日本経済新聞「マンション共用部から漏水、管理組合に賠償責任 最高裁初判断」
・区分所有法
・民法(工作物責任)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

