2026年に入り、金(ゴールド)価格の上昇が止まりません。国際価格は1トロイオンス5000ドルが視野に入り、国内の小売価格も史上初めて1グラム2万7000円台に到達しました。
株式市場では楽観的な見方が根強い一方で、金市場はまったく異なるメッセージを発しています。このねじれは、単なる資産配分の問題ではなく、市場全体のリスク認識の差を映し出しているように見えます。
本稿では、金価格上昇の背景を整理しつつ、それが私たちに何を警告しているのかを考えてみます。
金価格上昇は「パニック」ではない
今回の金価格上昇の特徴は、投機的な急騰やパニック買いではない点にあります。
相場を支えているのは、短期の値幅取りを狙う資金というよりも、中長期の不確実性を織り込んだ「情報に精通した投資家」の買いです。
値動きは確かに荒くなっていますが、下落局面では押し目買いが入り、高値圏を維持しています。これは、金が一時的な逃避先ではなく、構造的なリスクヘッジ手段として再評価されていることを示唆します。
地政学リスクと「秩序への不信」
金価格を押し上げている最大の要因は、地政学リスクの質的変化です。
紛争や制裁といった従来型のリスクに加え、「国際秩序そのものが不安定化している」という認識が広がっています。
象徴的なのが、ドナルド・トランプ政権下での強硬な外交姿勢です。グリーンランドを巡る関税発言や、同盟国を含む貿易圧力は、市場に大きな不確実性をもたらしました。
結果として、米国株・米国債・ドルが同時に売られる「トリプル安」が発生し、安全資産としての金に資金が集中する局面が見られました。
中央銀行の行動が示す長期トレンド
近年の金価格上昇を支えてきたのは、新興国を中心とした中央銀行の動きです。
外貨準備をドル一辺倒から分散させ、金の比率を高める流れは、すでに数年にわたって続いています。
米国自身が地政学リスクの震源となる状況では、「安全資産としての米国債」が相対的に選びにくくなります。
この結果、国家レベルでも「最後の担保」としての金の存在感が再び高まっているのです。
株式市場との温度差
興味深いのは、金市場が警戒を強める一方で、株式市場には楽観ムードが残っている点です。
関税撤回などのニュースが出ると、株価はすぐに反発します。S&P500が短期間で大きく戻す場面もありました。
しかし、金価格は多少下落しても高値圏を維持しています。
これは「短期的な安心」と「中長期的な不安」が同時に存在している状態だと考えられます。
「黄金のカナリア」という視点
元FRB議長のアラン・グリーンスパン氏は、金を「炭鉱のカナリア」に例えました。
カナリアが危険なガスにいち早く反応するように、金は市場の異変を先に察知する存在だという意味です。
現在の金価格は、「すぐに危機が来る」と断定するものではありません。
しかし、「何かがおかしい」「これまでと同じ前提で楽観してよいのか」という違和感を、静かに、しかし明確に発しているように見えます。
5000ドルは通過点なのか
米金融機関の中には、2026年末の金価格予想を5000ドル超に引き上げる動きもあります。
これは、短期的な材料というより、国際秩序・金融政策・中央銀行の行動を踏まえた中長期シナリオの反映です。
重要なのは、価格水準そのものよりも、「なぜそこまで評価が引き上げられているのか」を考えることです。
結論
金価格の上昇は、単なる資産価格の話ではありません。
それは、市場が表向きの楽観とは裏腹に、深いところでリスクを再評価し始めているサインです。
株式市場が強気を維持する中で、金が高値圏を離れない。
この構図は、「何も起きないこと」を前提にするには、少し違和感のある状況と言えるでしょう。
今は悲観に傾く局面ではありませんが、楽観に身を委ねすぎる時期でもなさそうです。
市場が発する「黄金のカナリア」の声に、一度立ち止まって耳を傾ける。
それが、いま求められている姿勢なのかもしれません。
参考
・日本経済新聞「ポジション〉金上昇、楽観ムードに警告」
・日本経済新聞 金・国際金融関連記事
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
