中小企業の経営者にとって、事業承継は避けて通れない課題です。
後継者不足が深刻化するなか、第三者に会社を引き継ぐ事業承継M&Aは、廃業を回避し、雇用や取引先を守る手段として定着しつつあります。
一方で近年、事業承継M&Aを巡るトラブルも目立つようになってきました。
会社を守るために選んだはずのM&Aが、結果として会社の資産を失い、元経営者自身が多額の債務を背負う事態に発展する例も報告されています。
本稿では、事業承継M&Aの現状とともに、悪質な買い手による被害の典型例、そして経営者が事前に押さえておくべき実務上の注意点を整理します。
事業承継M&Aが急増している背景
中小企業経営者の高齢化は、すでに統計上も明らかです。
後継者がいない場合、廃業という選択肢もありますが、長年築いてきた技術や取引関係、従業員の雇用を考えれば、第三者への承継を模索する経営者は少なくありません。
事業承継M&Aは、
・会社を存続させられる
・従業員の雇用を守れる可能性がある
・経営者個人の引退後の生活資金を確保できる
といった点で、有力な選択肢として位置づけられています。
実際、事業承継を目的とするM&A件数は年々増加しており、制度や仲介サービスも整備されてきました。
しかし、こうした環境整備の裏側で、別の問題も生じています。
悪質なM&Aで起きていること
問題となっているのは、会社の事業そのものではなく、資産だけを目的とする買い手の存在です。
典型的なケースでは、
・会社を買収した後、主要な不動産や資産を売却
・運転資金や従業員給与が滞る
・最終的に会社を清算し、買い手と連絡が取れなくなる
といった流れをたどります。
この場合、売却した経営者は、
・会社を失う
・従業員を守れなかったという精神的負担を負う
・場合によっては個人保証が残り、債務返済を求められる
という三重の苦しみを背負うことになります。
事業承継M&Aは、成功すれば双方にとって意義のある取引ですが、失敗した場合の影響は極めて深刻です。
連帯保証が外れないという落とし穴
特に注意が必要なのが、経営者個人の連帯保証です。
会社売却により経営から退いたとしても、
・金融機関との保証契約が解除されていない
・解除の手続きが買収後に先送りされている
といった場合、元経営者は引き続き債務の責任を負うことになります。
買い手側の経営が破綻すれば、金融機関は当然、保証人である元経営者に返済を求めます。
会社は手放したにもかかわらず、個人の生活は守られないという事態です。
この問題は、契約書の文言だけでなく、
・保証解除のタイミング
・金融機関との合意の有無
・実務上の段取り
まで含めて確認しなければ防げません。
仲介業者に任せきりにしない姿勢
事業承継M&Aでは、仲介業者や金融機関の紹介を通じて相手を探すケースが一般的です。
しかし、紹介されたからといって、相手を無条件に信用するのは危険です。
買い手の
・事業内容と実態
・財務状況
・過去のM&A実績
・経営者本人の関与度合い
などを、自らの目で確認する姿勢が欠かせません。
面談の場で経営者がほとんど発言せず、担当者だけが説明する場合など、違和感を覚える点があれば立ち止まる必要があります。
検討期間を十分に確保し、急かされる契約には応じないことも重要です。
専門家と公的支援をどう使うか
M&A契約や財務調査は、高度な専門知識を要します。
仲介業者とは別に、弁護士や税理士など第三者の専門家に助言を求めることで、リスクを大きく減らすことができます。
また、事業承継に関する公的な相談窓口も存在します。
これらの機関では、
・事業承継の進め方の整理
・仲介業者の選び方
・トラブルを避けるための視点
について、中立的な立場から助言を受けることができます。
検討段階から相談できる点も、大きなメリットです。
結論
事業承継M&Aは、会社と雇用を守る有効な手段である一方、進め方を誤れば、経営者自身の人生を大きく揺るがすリスクを伴います。
重要なのは、
・相手を吟味する時間を確保すること
・連帯保証の解除を確実にすること
・仲介業者に任せきりにしないこと
・第三者の視点を取り入れること
です。
会社を残すという思いが強いほど、冷静な判断が難しくなる場面もあります。
だからこそ、事業承継M&Aは、経営の最終局面における重大な経営判断であることを改めて認識し、慎重に進める必要があります。
参考
・日本経済新聞「中小企業 リーガル処方箋 事業承継、悪質なM&Aにご用心」
・中小企業庁 事業承継ガイドライン
・事業承継・引継ぎ支援センター関連資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
