所得格差と機会の不平等 氷河期世代が直面した「世代内格差」という現実

人生100年時代
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日本の所得格差を語るとき、「若者と高齢者」「正規と非正規」といった切り口がよく用いられます。しかし、世代という単位で丁寧に見ていくと、単なる世代間格差では説明できない構造が浮かび上がります。その代表例が、いわゆる就職氷河期世代です。

氷河期世代は、1990年代から2000年代初頭にかけて学校を卒業し、厳しい雇用環境の中で社会に出ました。彼らは、所得水準そのものが低いというよりも、同じ世代の中で大きな格差を抱えた世代である点に特徴があります。本稿では、日経新聞の「やさしい経済学」の議論を手がかりに、氷河期世代の所得格差の実態と、その背景にある「機会の不平等」について整理します。

氷河期世代とはどのような世代か

就職氷河期世代とは、おおむね1993年から2004年ごろに高校や大学を卒業した世代を指します。この時期は、バブル崩壊後の長期不況と重なり、失業率が高止まりし、有効求人倍率も低迷していました。

さらに重要なのは、この世代が非正規雇用の拡大期と重なっていた点です。新卒一括採用を前提とした日本型雇用慣行の中で、正規雇用の門戸が狭まり、やむを得ず非正規雇用に就く若者が増えました。一度非正規としてキャリアをスタートすると、正規雇用へ移行する機会が限られ、賃金水準や雇用の安定性に長期的な影響が及びやすくなります。

加えて、氷河期世代は団塊ジュニア世代と重なり、人口規模が大きいという特徴もあります。労働市場に供給される若年労働力が多い中で、企業側の採用意欲は弱く、競争が一層激しくなりました。この複合的な要因が、氷河期世代の出発点を不利なものにしました。

次世代との比較で見える「取り残され感」

氷河期世代の次の世代、いわゆるポスト氷河期世代は、リーマン・ショックという大きな経済危機を経験しています。一見すると、こちらの方が不利に思えるかもしれません。しかし、実際には団塊世代の大量退職と重なったことで、新規学卒者の就職環境は徐々に改善しました。

その結果、氷河期世代は、前のバブル世代より条件が悪く、後の世代ほど回復の恩恵も受けられないという、世代の谷間に位置することになります。この「長期にわたる不利」が、氷河期世代の特徴です。

ただし、ここで注意すべき点があります。研究によれば、氷河期世代と2005年以降に卒業した世代との間で、平均的な収入水準や雇用の安定性に決定的な差があるわけではありません。氷河期世代だけが特別に低収入という単純な構図ではないのです。

所得水準よりも深刻な「世代内格差」

氷河期世代の問題を理解する上で重要なのが、「世代内格差」という視点です。等価可処分所得を用いた分析では、氷河期世代の所得水準自体は、男女ともに他の世代と大きく異なるわけではありません。

しかし、世代の中での格差に目を向けると様相が一変します。氷河期世代の男性では、前の世代よりも所得格差が拡大しており、同じ世代の中に「安定した高収入層」と「不安定で低収入の層」が併存しています。しかも、その後の世代では、世代内格差がむしろ縮小しているという結果も示されています。

つまり氷河期世代は、前後の世代と比べて、最も大きな世代内格差を経験した可能性が高い世代だと言えます。

機会の不平等が固定化するメカニズム

なぜ、氷河期世代では世代内格差が拡大したのでしょうか。その背景には、「初期条件の差」が長期にわたって影響する日本の雇用システムがあります。

新卒時に正規雇用として採用され、社内で経験を積み、昇進・昇給の機会を得た人と、非正規雇用や不安定な職を転々とした人では、その後のキャリアパスが大きく分かれます。この差は、本人の努力だけでは埋めにくく、景気や制度といった外部環境に左右されやすいものです。

氷河期世代は、まさにこの分岐点が最も厳しい時期に社会に出た世代でした。その結果、同じ世代でありながら、機会に恵まれた人とそうでない人の差が拡大し、それが現在まで持続しています。

現在とこれからの課題

現在、氷河期世代は40代後半から50代前半に差しかかっています。老後を見据える年齢に入りつつある中で、所得や資産の格差は、年金額や生活水準の差として顕在化していきます。

ここで重要なのは、氷河期世代の問題を「過去の話」として片付けないことです。若年期の機会の不平等が、中高年期、さらには老後の格差へと連鎖する構造をどう断ち切るかは、社会全体の課題でもあります。

結論

氷河期世代の特徴は、単なる低所得ではなく、「世代内での大きな所得格差」にあります。その背景には、就職期の厳しい経済環境と、日本特有の雇用慣行による機会の不平等が存在していました。

この世代が経験した格差は、偶然や個人の能力差だけで説明できるものではありません。社会や制度が生み出した構造的な問題として捉えることが、今後の格差対策や社会保障を考える上で不可欠です。氷河期世代の現実を直視することは、将来世代に同じ問題を繰り返さないための第一歩でもあります。

参考

・日本経済新聞「やさしい経済学 所得格差と機会の不平等(4) 氷河期世代の大きな所得格差」
・四方理人(関西学院大学准教授)解説記事
・近藤絢子「雇用と所得の世代分析に関する研究」


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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