ニデック会計問題から考える「不適切会計」が起きる構造と再発防止の視点

会計
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製造業大手のニデックを巡る不適切会計の疑いは、単なる一企業の問題にとどまらず、日本企業のガバナンス、監査、投資家行動の在り方を改めて問い直す事例となっています。
第三者委員会の調査が続くなか、創業者の代表取締役辞任、監査法人による意見不表明など、異例の事態が連鎖しました。

本稿では、日本経済新聞に掲載された専門家3名の見解を手がかりに、不適切会計が生じる構造、監査とガバナンスの限界、そして再発防止に必要な視点を整理します。短期的な善悪論ではなく、マクロ・長期の視点から考えることを目的とします。


不適切会計は「指示」がなくても起きる

一橋大学大学院客員教授の佐々木清隆氏は、今回の問題を約10年前の東芝不正会計と重ね合わせています。
共通点として指摘されているのは、トップからの明確な不正指示がなくとも、強い収益プレッシャーと企業風土が周囲の忖度を生み、不適切な会計処理に至る可能性です。

カリスマ性の高い創業経営者の存在は、企業成長の原動力になる一方で、異論を唱えにくい組織文化を生むリスクも孕みます。
今回の検証において重要なのは、個別の会計処理の是非だけでなく、永守体制下で形成された企業カルチャーが、どのように意思決定に影響していたのかを丁寧に解きほぐすことだといえます。


監査法人の役割と「監査の質」

今回、監査法人であるPwCジャパンが、有価証券報告書等に意見不表明を付したことは、市場に大きな衝撃を与えました。
佐々木氏は、社外取締役や監査等委員会が機能していたかに加え、監査法人自身のリスク評価や監査の質も検証対象になると指摘しています。

企業監査の中核は、内部統制の有効性評価にあります。
形式的なルール遵守の確認にとどまる監査は、いずれAIに代替される可能性が高く、監査法人には、経営者自身がまだ認識していないリスクを可視化する付加価値が求められています。

監査が単なるコストではなく、企業価値向上に資する投資として認識されるかどうかは、経営者と投資家双方の意識改革にかかっています。


株価重視経営と経営者責任の捉え方

弁護士の佐藤明夫氏は、株価重視や収益確保そのものは経営者として当然であり、それ自体を否定すべきではないと述べています。
国内市場が縮小するなか、トップラインの成長が難しい環境で企業を維持すること自体が、経営に大きな負荷を与えているのが現実です。

重要なのは、不祥事が起きた瞬間に経営者のすべてを否定するのではなく、これまでの経営判断と今回の問題がどのようにつながっているのかを冷静に分析する姿勢です。
EV需要の減速や欧州規制の揺り戻しなど、外部環境の急変が意思決定にどのような歪みをもたらしたのかも、検証の対象に含める必要があります。


社外取締役とマクロ・長期の視点

佐藤氏が強調するのは、社外取締役に求められるマクロ・長期の視点です。
経営者は日々の業務に追われ、外部環境を俯瞰する余裕を失いがちです。そのギャップを埋め、社会や市場の変化の兆しを経営に伝える役割こそが、社外取締役の本質だといえます。

形式的に独立性を満たすだけでは、実効性のある牽制は機能しません。
社外取締役がどこまで踏み込んで議論し、経営判断に影響を与えていたのかは、今回の問題を通じて改めて問われる点です。


投資家の責任とガバナンスの空白

アストナリング・アドバイザー代表の三瓶裕喜氏は、投資家側の責任にも踏み込んでいます。
監査報告の未受領や有価証券報告書の提出延期といったシグナルが出ていたにもかかわらず、株主総会では高い賛成率で再任が承認されました。

機関投資家が議決権行使基準に抵触しないとして機械的に賛成した結果、企業側への危機認識の伝達が弱まった可能性は否定できません。
反対でなくとも棄権という形で意思表示していれば、事態の進展は異なっていた可能性があります。

ガバナンスは企業内部だけで完結するものではなく、投資家行動も含めたエコシステムとして機能する必要があります。


内部統制システムの再構築が鍵

再発防止の核心として三瓶氏が挙げるのが、内部統制システムの実効性です。
監査等委員会や指名委員会が機能する前提として、内部監査部門が迅速かつ独立して動ける体制が不可欠です。

制度が存在していても、実動部隊に指示が届かず、調査が形骸化していれば意味がありません。
社外取締役自身が役割と責任を再確認し、実質的な統治機能を果たすことが求められています。


結論

ニデック会計問題は、誰か一人を断罪して終わる話ではありません。
カリスマ経営、監査の質、社外取締役の実効性、投資家の行動、そして内部統制の運用。これらが複合的に絡み合った結果として捉える必要があります。

短期的な株価や業績に偏らず、マクロ・長期の視点で経営を監視し、支える仕組みをどう再設計するか。
この問いは、ニデックに限らず、日本企業全体に突き付けられている課題だといえるでしょう。


参考

・日本経済新聞
 「ニデック会計問題、専門家に聞く 監査の質、検証必要」
 「マクロ・長期の目を」
 「内部統制システム改めて」


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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