――実務・税務の注意点とスムーズな承継のために
近年の金価格の高騰を受けて、「金を買って資産を守ろう」と考える個人が増えています。とくに相続対策の一環として「現金を金地金に換えておく」という動きも見られます。
しかし、金は相続や贈与の場面で評価・分割・申告といった実務上の課題を引き起こしやすい資産です。正しい知識を持たずに相続が発生すると、家族間のトラブルや余計な税負担につながりかねません。
金の相続税評価
1. 評価額の算定方法
金は、相続発生時の「時価」で評価します。
- 金地金:相続開始日または申告時点の取引価格
- 金貨:市場流通価格(記念硬貨などは別途評価)
ここで注意が必要なのは、金価格の変動リスクです。相続発生日と申告期限(10か月以内)の間で価格が大きく変動することもあり、申告時の時価で評価するのが原則となります。
2. 消費税の扱い
購入時には消費税が課されますが、相続評価には含めません。あくまで時価ベースでの評価です。
分割の難しさとトラブル事例
金の相続で最も問題になるのは「分けにくさ」です。
- 分割困難
例:1kgの金地金を相続人3人で分けることは実務的に難しい。 - 評価タイミングのずれ
ある相続人が現物で受け取り、別の相続人が換金後の現金を受け取ると、金価格の変動で不公平感が生まれる。 - 存在把握の難しさ
金庫や貸金庫に眠っていた金が発覚せず、後々トラブルになるケースも。
解決策
- 事前に分割方針を決めておく(誰が現物を持ち、誰が現金で受け取るか)
- 遺言書で明示する(金の扱いを具体的に書く)
- 金融商品で保有する(ETFなら口座残高で分割できる)
贈与での金の扱い
評価と課税
金を贈与する場合も、その時点の時価で評価します。
- 年間110万円までの基礎控除枠を超えると贈与税の対象
- 高額な贈与になると累進税率(最高55%)が課される
注意点
- 「少額だからバレないだろう」と考えるのは危険。税務署は銀行の取引履歴や金購入履歴を把握できる場合があります。
- 相続税対策で金に換えても、単純に評価額が減るわけではありません。
金を活用した相続対策の考え方
メリット
- インフレに強く、長期的に価値を維持しやすい
- 海外でも価値が通用する資産
- 分散投資の一部として相続財産に組み込みやすい
デメリット
- 分割の難しさ
- 評価変動によるトラブルリスク
- 税務上の特別な優遇はない
有効な活用方法
- 金融商品での保有
ETFや投資信託であれば、相続人ごとに分割しやすい。 - 計画的な贈与
毎年基礎控除の範囲で少しずつ贈与することで、税負担を抑えられる。 - 遺言・家族信託の活用
誰にどの形で承継するかを明確にし、相続人間のトラブルを防ぐ。
税理士・FPの視点:金は「資産防衛」以上に「承継設計」が重要
金は「守る資産」としての役割が強いですが、相続や贈与を視野に入れると承継のしやすさが極めて重要になります。
- 家族に資産内容を共有しておく
- 遺言やエンディングノートに明記しておく
- 金の保有形態(現物か金融商品か)を考えておく
特にこれからの時代は、現金・不動産・株式だけでなく、金のような「代替資産」をどう承継していくかが課題になります。
まとめ:金の相続・贈与は計画と透明性がカギ
金はインフレや地政学リスクに強い資産であり、資産防衛の観点では非常に有効です。しかし相続・贈与となると、評価や分割の難しさが表面化します。
だからこそ、
- 事前の計画
- 保有形態の工夫
- 家族への情報共有
が不可欠です。金の価値そのものを守るだけでなく、「どう承継するか」を考えることが、次世代に資産を引き継ぐ上で最も重要だと言えるでしょう。
📌 参考資料
- 日本経済新聞 2025年9月14日付「金の高騰は世界の複合リスクへの警鐘だ」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

