下請法から取適法へ――支払60日ルールが意味するもの

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2026年1月、「下請代金支払遅延等防止法(下請法)」が抜本改正され、「中小受託取引適正化法(取適法)」が施行されました。改正の中心は、これまで構造的に弱い立場に置かれてきた中小企業の取引環境を是正する点にあります。
とりわけ注目されるのが、部品代金などの支払期日に関するルール変更です。最長120日とされてきた支払までの期間が、原則60日以内へと大きく短縮されました。金利上昇局面に入った日本経済において、この改正が持つ意味は小さくありません。

取適法とは何か――対象拡大という大きな転換

取適法は、従来の下請法を約22年ぶりに抜本的に見直した法律です。最大の特徴は、規制対象となる取引の範囲が大きく広がった点にあります。
旧下請法では、主として資本金基準で大企業と中小企業の関係を整理していましたが、取適法では従業員数を軸に判断します。具体的には、従業員300人超の企業が、300人以下の企業や個人に業務を発注する取引が対象となります。一部の業種では100人基準も用いられます。

この変更により、公正取引委員会は対象取引の比率が約44%に拡大すると見込んでいます。発注側企業にとっては、従来「下請法の対象外」と考えていた取引も、新たに法規制の射程に入る可能性が高まったと言えます。

支払ルールの核心――120日から60日へ

取適法の中でも実務的な影響が最も大きいのが、支払期日に関するルールです。
旧下請法では、手形決済が認められており、発注先が代金を現金化するまで最長120日を要するケースもありました。取適法では、仕事の成果物を受領した日から起算して、60日以内のできるだけ短い期間内で支払期日を定めることが求められます。

支払期日を定めていない場合には、受領日そのものが支払期日とみなされます。電子記録債権など現金以外の決済手段を用いること自体は禁止されていませんが、支払期日までに現金化できなければ違反となります。形式よりも、実質的な資金回収の速さが重視される点が特徴です。

不当な減額と遅延利息の新設

取適法では、不当な代金減額の禁止が明確化されました。さらに、減額が不当と認定された場合には、遅延利息を支払う義務が新たに課されています。
これにより、発注側が交渉力を背景に一方的な条件変更を行う余地は、従来よりも大きく狭められました。

金利上昇局面での意味合い

今回の改正は、単なる取引慣行の是正にとどまりません。
企業の借入金利が0.25%上昇した場合、1社あたり年平均64万円の支払利息が新たに発生し、経常利益を平均2%押し下げるとの試算もあります。金利のある世界へ移行する中で、資金回収の遅れは中小企業の経営体力を直接的に削ります。

支払サイト短縮は、中小企業の資金繰りを下支えし、賃上げ余力の確保にもつながる制度的インフラとして位置付けることができます。

監視体制の強化

取適法では、公正取引委員会に加え、中小企業庁など複数省庁が企業指導を行える体制が整えられました。意図的な違反と判断された場合には、勧告や社名公表といった措置も想定されています。
発注側企業にとっては、コンプライアンス対応が経営課題の一部として明確に位置付けられる段階に入ったと言えるでしょう。

結論

取適法は、下請法時代の延長線上にある小幅な修正ではありません。支払60日ルールに象徴されるように、資金の流れを通じて取引構造そのものを見直す制度です。
金利上昇と人手不足が同時進行する中で、中小企業が持続的に賃上げを行うためには、取引の適正化が不可欠です。取適法は、その前提条件を制度面から整える役割を担っています。
発注側・受注側のいずれにとっても、自社の取引が新たな法の枠組みの中でどう位置付けられるのか、改めて点検することが求められています。

参考

・日本経済新聞「下請法から取適法へ(上)部品代金の現金化、最長120→60日に」
・中小企業庁 公表資料
・公正取引委員会 関連解説資料


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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