――NISA・iDeCo・相続対策の観点から考える「金(ゴールド)」の活用
これまでの連載では、金価格の高騰がいかに世界経済の不安を映す鏡であるかを確認してきました。では、その「金」を私たちの資産形成やライフプランの中にどのように組み込めばよいのでしょうか。
株式や債券、投資信託と比べると、金は配当や利息を生まない資産です。そのため「持つ意味があるのか?」という疑問を持たれる方も少なくありません。しかし、金は他の資産にはない特徴を持ち、うまく活用することで資産全体の安定性を高めることができます。
金の投資手段:現物と金融商品の選択肢
1. 現物保有(金地金・コイン)
- 銀行や商社を通じて金地金(インゴット)を購入可能
- コイン(金貨)は比較的少額から購入でき、コレクション要素もある
- メリット:実物資産としての安心感、インフレに強い
- デメリット:保管の手間、盗難リスク、売却時の手数料
2. 金ETF・投資信託
- 東京証券取引所でも「金価格連動型ETF」が上場
- 数千円から投資可能、証券口座で手軽に取引できる
- メリット:流動性が高く、分割売買が可能
- デメリット:現物ではないため「手元に残る安心感」はない
3. 積立型(金積立)
- 銀行や証券会社で「毎月1,000円から積立」が可能
- ドルコスト平均法で購入価格を平準化できる
- 長期で少しずつ金を増やすスタイルに適している
NISA・iDeCoとの関係
NISAでの金投資
- ETFや投資信託を通じて金に投資することが可能
- 売却益が非課税となるため、値上がり益狙いの運用に適する
- 一方、長期的に「保険」として保有するなら非課税メリットは限定的
iDeCoでの金投資
- 多くの金融機関では、iDeCoの商品ラインナップに「金連動型ファンド」が含まれるケースは少数
- 主に株式・債券中心の運用になるが、一部の証券会社では選択可能
- 老後資金の一部をインフレ対応資産として組み込むのも一案
税務上の取り扱い
譲渡益課税
- 金ETFや金地金を売却した際の利益は 譲渡所得課税 の対象
- 税率は原則 20.315%(所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315%)
- 株式の譲渡益課税と同じ水準
消費税
- 金地金の購入時には消費税がかかります(10%)
- 売却時には消費税分を含めて買い取ってもらえるため、二重課税にはならない仕組み
相続・贈与の観点
金は「価値が目減りしにくい資産」として相続・贈与の場面でも注目されます。
相続時の課題
- 金地金やコインは「時価評価」が必要
- 分割が難しい(例:兄弟で分けにくい)
- 実物の保管場所や存在の有無でトラブルになるケースも
贈与での利用
- 金を贈与する場合も、その時点の時価で評価
- 贈与税の基礎控除(年間110万円まで非課税)を超えれば課税対象
解決策
- 金を相続・贈与で承継するなら「現物」よりも「金融商品」の方が扱いやすい
- ETFや投資信託であれば、口座残高を分けるだけで済み、相続分割のトラブルを回避できる
家計における金の活用方法
1. 資産全体の5〜10%を目安に
- 金は資産全体の中で「保険」の役割
- 株や債券が不調のときに価格が上がる可能性があり、全体のリスクを抑える
2. 長期保有を前提にする
- 短期売買で利益を狙うよりも「長期の価値保存」に向いている
- 定期的な積立でコツコツ保有するスタイルが望ましい
3. 相続・承継を意識した持ち方
- 相続で揉めやすい「現物」よりも「金融商品」がおすすめ
- 家族に資産内容を共有しておくことも大切
まとめ:私たちにとっての金の意味
金は利息や配当を生みませんが、それ以上に「価値を守る力」を持っています。世界経済が混乱するとき、通貨や株式が揺らいでも金はその存在感を増します。
個人の資産形成においては、金を「リターン狙い」ではなく「リスク対策」として組み込むのがポイントです。NISAやiDeCoを活用した株式投資と組み合わせることで、より安定したポートフォリオが築けます。
また、相続・贈与の観点からも、金融商品を通じた金保有は承継の円滑化に役立ちます。長寿社会において「人生100年時代を共に活きる」ための資産防衛手段として、金はこれからも重要な選択肢であり続けるでしょう。
📌 参考資料
- 日本経済新聞 2025年9月14日付「金の高騰は世界の複合リスクへの警鐘だ」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
