第1回 なぜ金(ゴールド)は高騰しているのか?

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――世界経済の不安を映す「リスクの鏡」

2025年9月、国際的な金の指標となるニューヨーク金先物価格が1トロイオンス=3700ドル台をつけ、過去最高値を更新しました。昨年末からの上昇率は4割にも達し、世界の投資家や中央銀行がこぞって金を買う動きが鮮明になっています。

通常、株式市場が活況を呈しているときには、安全資産である金は買われにくい傾向があります。しかし今回の特徴は、日経平均株価をはじめとする株価も同時に最高値を更新している点です。株高と金高が並行して進む現象は異例であり、世界経済に内在するリスクを示すサインと受け止めるべきでしょう。


金が買われる背景① 地政学リスクの拡大

まず挙げられるのは、世界各地で高まる地政学的リスクです。

  • ウクライナ情勢:依然として解決の兆しが見えず、欧州の安全保障環境は不安定なまま。
  • 中東情勢:直近ではイスラエルがカタールを攻撃するなど、新たな火種が拡大。

有事が起きると、通貨や株式といった金融資産よりも「実物資産」としての金に資金が流れやすくなります。いわゆる「有事の金買い」が働いているのです。


金が買われる背景② インフレ懸念と金融政策への不信

次に大きな要因となっているのが、米国の金融政策に対する信認の低下です。

米国では、トランプ大統領がFRB(米連邦準備理事会)に対し、執拗に利下げを要求。さらにはクック理事に解任通告を行うなど、人事面にまで介入する姿勢を見せています。政治の圧力によって金融政策が歪められれば、実態に即さない利下げが行われ、インフレを再燃させるリスクが高まります。

市場は「FRBの独立性が失われつつあるのではないか」という不信感を抱き始めています。この懸念がドル資産への不安を呼び込み、代替資産としての金を押し上げる結果となっているのです。


金が買われる背景③ ドルの信認低下と各国の行動

さらに注目すべきは、基軸通貨ドルそのものに対する信認の揺らぎです。

ロシアへの経済制裁としてドル資産が凍結されたことを契機に、新興国を中心に「ドル一極集中」への警戒が強まりました。その代替先として各国中央銀行が選んだのが金です。

  • 中国人民銀行は2022年11月以降、18カ月連続で金を買い増し。
  • 一時停止後も2024年11月から再び積極的な購入を開始。

こうした中央銀行の動きは市場に大きなインパクトを与え、民間投資家の金需要も刺激しています。


金が買われる背景④ 市場構造の変化

金市場そのものの構造も変わっています。かつては金地金を直接買うか、先物市場で取引するしか方法がありませんでした。しかし現在はETF(上場投資信託)が普及し、個人投資家でも簡単に金に投資できるようになりました。

この結果、機関投資家だけでなく個人マネーも流入し、価格変動が拡大する傾向にあります。金は「投資の民主化」によって、より多くの人が触れられる資産になった反面、ボラティリティ(変動幅)も増しているのです。


歴史から学ぶ:1970年代の金高騰

今回の金高騰を理解する上で参考になるのが、1970年代の事例です。当時はブレトンウッズ体制の崩壊により、米ドルと金の兌換制度が廃止され、通貨制度が大きく揺らぎました。その不安定な環境で金価格は急騰しました。

歴史的に「通貨制度や国際秩序が揺らぐとき、金が買われる」というパターンが繰り返されています。今の状況はその再現とも言え、世界の分断や基軸通貨への不信が金高騰を引き起こしているのです。


税理士・FPの視点:なぜ今こそ金に注目すべきか

個人投資家にとって、金は次のような意味を持ちます。

  • 資産の分散効果:株式や債券と異なる値動きをするため、ポートフォリオ全体のリスクを軽減できる。
  • インフレや通貨不安への保険:物価上昇や円安・ドル安といった局面でも価値を維持しやすい。
  • 長期的な安定資産:短期的には変動が大きいが、長期で見れば価値保存手段としての役割を果たす。

ただし「金だけ持てば安心」というわけではありません。むしろ株や債券、現預金とバランスを取った中で「一部を金に配分する」ことが重要です。


まとめ:金価格は「世界のリスクを映す鏡」

今回の金高騰は、単なる投資ブームではなく、世界の複合的リスクを反映したものです。

  • 地政学的な不安
  • 政治と金融政策の緊張
  • 通貨への信認低下
  • 投資の裾野拡大

これらが絡み合うことで、金価格は上昇を続けています。歴史が示すように、金は世界経済の「リスクの鏡」。その動きを注視することは、個人の資産形成や防衛においても欠かせません。


📌 参考資料

  • 日本経済新聞 2025年9月14日付「金の高騰は世界の複合リスクへの警鐘だ」

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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