令和8年度税制改正大綱は、税率の大幅な引き上げや引き下げといった、分かりやすい改正がほとんど見られません。
そのため、「今年の改正は小粒だ」「あまり影響はなさそうだ」と受け止めている人も多いかもしれません。
しかし、税制改正大綱を丁寧に読み込むと、今回の改正は、
これからの税制の前提条件そのものを組み替える内容
であることが分かります。
第1回では、個別の制度に入る前に、
- 何が問題意識とされ
- どの方向に税制が動こうとしているのか
を、制度設計の視点から整理します。
税制改正大綱の位置づけを正しく理解する
税制改正大綱は法律ではありません。
毎年12月に政府・与党が示す、翌年度以降の税制改正の基本方針です。
ここに盛り込まれた内容を基に、
- 所得税法
- 法人税法
- 消費税法
などが改正され、原則として翌年度以降に段階的に施行されます。
つまり、税制改正大綱は、
「すでに決まった結果」ではなく、「これから数年かけて現実化する方向性」
を示す資料です。
今回の改正の出発点は「物価と税制のズレ」
令和8年度税制改正の最大の出発点は、
物価上昇と税制の前提のズレです。
基礎控除や給与所得控除、通勤手当の非課税限度額など、多くの制度は、長期間ほぼ据え置かれてきました。
その間に、食料品、エネルギー、住宅関連費用など、生活コストは確実に上昇しています。
その結果、
- 名目上の収入は増えていなくても
- 実質的な生活余力は低下し
- 税負担が相対的に重くなる
という状態が生じていました。
今回の改正は、このズレを放置できなくなったことへの対応といえます。
今回は「減税」ではなく「課税範囲の再定義」
基礎控除や給与所得控除の引き上げは、表面的には減税に見えます。
しかし、今回の改正の本質は、可処分所得を積極的に増やす政策ではありません。
これまで課税対象としてきた部分のうち、
実質的には生活費に近づいてしまった領域を、課税対象から外し直す
という性格の調整です。
そのため、
- 全員の手取りが大きく増える
- 家計が劇的に楽になる
といった改正ではありません。
働き方の変化が前提に組み込まれた税制
今回の税制改正大綱では、
「会社に雇われ、1つの収入源で働く」というモデルが、
もはや前提ではなくなっていることが随所に表れています。
- 副業を持つ会社員
- フリーランスや個人事業主
- 高齢期も働き続ける人
- 共働き世帯
これらを例外ではなく、標準的な姿として税制に組み込もうとしています。
青色申告、電子帳簿保存、通勤手当や食事補助の見直しは、その具体的な表れです。
資産形成は「後押し」しつつ「行き過ぎは調整」
令和8年度改正では、NISAの拡充など、資産形成を後押しする制度が維持・強化されています。
一方で、暗号資産の課税整理や、ふるさと納税の上限設定など、
一部の制度については行き過ぎを抑える方向で調整が行われています。
これは、
資産形成は促進するが、税制の公平性は維持する
というメッセージと読み取れます。
消費税・インボイス制度は「定着」を前提に調整段階へ
消費税やインボイス制度についても、
「導入するか、撤回するか」という段階はすでに終わっています。
今回の改正では、
- 経過措置の扱い
- 実務負担への配慮
などを通じて、制度を現実に根付かせる方向が明確になっています。
これは、将来的に消費税がより重要な財源として位置づけられることを前提とした動きです。
このシリーズで扱う視点
本シリーズでは、令和8年度税制改正大綱について、
- どの制度が
- どの層に
- いつ頃から
- どのような影響を与えうるのか
を、できるだけ具体的に解説していきます。
単なる制度紹介ではなく、
税制が何を問題視し、何を修正しようとしているのか
という視点を重視します。
おわりに
令和8年度税制改正大綱は、静かな改正です。
しかしその分、税制の前提条件を少しずつ組み替える、長期的な意味を持っています。
次回は、基礎控除・給与所得控除について、
金額、年収帯、影響が出やすい層を整理しながら、
今回の改正がどこまでを「生活費」とみなしたのかを具体的に見ていきます。
参考
・自由民主党「令和8年度税制改正大綱」
・財務省「税制改正に関する資料」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

