株主総会の書面決議について、議決権の9割以上の賛成で成立できるよう要件を緩和する会社法改正が検討されています。この動きはスタートアップを中心とした株式会社を念頭に置いたものですが、実務の現場では「合同会社や小規模法人と比べて何が変わるのか」という疑問も生じます。
本稿では、今回の改正案を軸に、株式会社・合同会社・小規模法人の意思決定の仕組みを比較し、その位置づけを整理します。
株式会社の意思決定構造
株式会社では、所有と経営が分離していることを前提に、重要事項は株主総会で決議する仕組みが採られています。
増資、役員の選任・解任、定款変更などは、原則として株主総会の決議事項です。現行制度では、書面のみで総会決議を成立させるためには、株主全員の同意が必要とされてきました。
このため、株主数が少ない非上場企業であっても、実務上は総会開催を省略できない場面が多く、迅速な意思決定の妨げとなることがありました。
今回の改正案がもたらす変化
検討されている改正では、書面決議の成立要件を「全員同意」から「議決権の9割以上の賛成」へと緩和します。
これにより、少数株主が存在していても、一定の多数が賛成すれば、総会を開かずに決議が可能になります。
この点で、株式会社の意思決定は、従来よりも合同会社に近い柔軟性を持つことになります。
合同会社の意思決定との比較
合同会社では、原則として社員(出資者)が経営に直接関与します。意思決定は、定款に別段の定めがなければ、社員全員の同意が必要ですが、実務では多数決や代表社員への権限集中を定款で定めることが一般的です。
また、社員総会という形式的な会議を開催せず、書面や電子的な合意で意思決定を行うことも多く、スピード面では株式会社より柔軟です。
今回の会社法改正は、株式会社についても、一定条件のもとでこの「合同会社的な迅速性」を取り込もうとする動きと評価できます。
小規模法人(同族会社)との関係
中小企業、とくに同族会社では、株主が経営者とほぼ一致しているケースが少なくありません。この場合、形式的には株主総会を開催していても、実質的には経営者の判断がそのまま決議となることが多いのが実情です。
しかし、たとえ株主が少数であっても、株式会社である以上、法律上の手続きは省略できません。書面決議の要件緩和により、小規模な同族会社においても、形式的な総会開催の負担が軽減される効果が期待されます。
比較整理:制度の性格の違い
今回の改正を踏まえると、各形態の意思決定の性格は次のように整理できます。
株式会社は、株主保護を重視しつつも、スタートアップや小規模法人では迅速性を高める方向へ調整が進められています。
合同会社は、もともと柔軟な意思決定を前提とした制度設計であり、スピード重視の事業には適した形態です。
小規模な同族会社は、実態としては迅速に動ける一方、形式面で株式会社特有の負担がありましたが、今回の改正でそのギャップが縮小します。
実務上の選択への影響
これから法人形態を選ぶ起業家にとっては、「株式会社か合同会社か」という選択において、意思決定のスピードという観点での差は小さくなります。
一方で、資金調達や将来的な上場を見据える場合には、引き続き株式会社が前提となる場面も多く、制度の使い分けが重要です。
既存の小規模法人についても、書面決議を安易に使うのではなく、議案の性質に応じて、議論を尽くすべきか迅速性を優先すべきかを判断する姿勢が求められます。
結論
株主総会の書面決議要件の緩和は、株式会社を「合同会社に近づける」改正とも言えます。ただし、完全に同じになるわけではなく、株主保護やガバナンスの考え方には引き続き違いがあります。
重要なのは、法人形態ごとの制度趣旨を理解したうえで、実務にどう落とし込むかです。今回の改正は、法人形態の違いを再確認し、自社にとって最適な意思決定のあり方を考えるきっかけになるでしょう。
参考
・日本経済新聞「新興の意思決定、迅速に 総会書面決議『9割賛成』に緩和」
・法務省 法制審議会資料(会社法関係)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
