スタートアップや非上場企業にとって、意思決定のスピードは事業成長を左右する重要な要素です。とくに増資や役員交代など、タイミングを逃すと経営に大きな影響を及ぼす局面では、迅速な手続きが求められます。
こうした中、株主総会を実際に開催せず、書面のみで決議できる制度について、会社法の見直しが検討されています。現行では株主全員の賛成が必要とされている要件を、議決権の9割以上の賛成で足りるとする方向です。本稿では、この制度改正の内容と、その実務的な意味について整理します。
現行の「書面決議」とは何か
株主総会の書面決議は、実務上「みなし決議」と呼ばれることがあります。株主総会を開かず、書面や電子的方法によって株主全員から同意を得た場合に、総会決議があったものとみなす仕組みです。
現在の会社法では、この書面決議を成立させるためには、株主全員の賛成が必要です。反対する株主が一人でもいる場合だけでなく、そもそも意思表示をしない株主がいる場合でも、決議は成立しません。この点が、実務上の大きなハードルとなっていました。
見直し案の概要
今回検討されている改正案では、書面決議の成立要件を緩和し、議決権の10分の9以上を有する株主の賛成があれば、総会を開かずに決議できるようにする方針が示されています。
対象として想定されているのは、主にスタートアップなどの非上場企業です。少数株主が存在していても、経営判断を迅速に進められるようにすることが狙いとされています。法制審議会での議論を経て、2026年度以降の会社法改正が想定されています。
なぜスタートアップで必要とされるのか
スタートアップでは、外部投資家の参入により株主数が増える一方で、事業環境の変化に迅速に対応する必要があります。
たとえば、資金調達の条件変更、役員体制の見直し、事業提携に伴う意思決定などは、短期間で判断しなければならない場面も少なくありません。総会開催の準備や日程調整に時間を要することが、成長の足かせになるケースもありました。
書面決議の要件緩和は、こうした実務上の課題に対応する制度改正と位置付けられます。
株主保護とのバランス
一方で、意思決定の迅速化と株主保護のバランスは重要な論点です。実際に株主総会を開催すれば、反対意見を踏まえて他の株主の判断が変わる可能性もあります。
この点を踏まえ、改正案では、株主に対する提案通知後、一定期間内に反対の意思表示があった場合には、書面決議を認めない仕組みも検討されています。具体的には、通知から1週間以内に反対を表明する株主がいれば、通常の株主総会を開催する必要が生じる案です。
単なる多数決による押し切りではなく、少数株主の意見表明の機会を確保しようとする調整が行われています。
中小企業・実務への影響
この改正は、必ずしもすべての会社に自動的に適用されるものではありません。定款の定めや、株主構成、実際の運用次第で影響の度合いは異なります。
ただし、今後は「総会を開くか」「書面決議を活用するか」を選択する場面が増えることが想定されます。経営者や実務担当者は、スピード重視の判断が適切か、議論を尽くすべき議案かを見極める必要が出てきます。
結論
株主総会の書面決議要件の緩和は、スタートアップや非上場企業にとって、意思決定を迅速化する大きな制度変更となる可能性があります。一方で、株主の権利保護やガバナンスの観点からは、慎重な運用が不可欠です。
制度が変わることで重要なのは、「使えるようになる」こと自体よりも、「どの場面で使うべきか」を判断する視点です。今後の法制審議の動向を注視しつつ、自社のガバナンス体制と照らし合わせて考えていくことが求められます。
参考
・日本経済新聞「新興の意思決定、迅速に 総会書面決議『9割賛成』に緩和」
・法務省 法制審議会資料(会社法関係)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

