ガソリン税の旧暫定税率廃止は、燃料価格の引き下げを通じて家計や事業活動を下支えする政策です。しかし、国と地方を合わせて年間およそ1.5兆円の税収減が生じる以上、その穴をどこかで埋めなければ、財政は成り立ちません。
このとき、必ず議論に浮上するのが「消費税」と「社会保障財源」です。本稿では、ガソリン税減税と消費税・社会保障財政の関係を整理し、今後想定される議論の方向性を考えます。
社会保障は最大の歳出項目
日本の財政において、社会保障関係費は最大の歳出項目です。高齢化の進行により、年金・医療・介護の給付費は構造的に増え続けています。
一方で、社会保障の財源は、
- 保険料
- 国庫負担(税)
によって賄われています。このうち、税による負担の中心が消費税です。消費税は「社会保障の安定財源」と位置づけられ、税率引き上げのたびにその役割が強調されてきました。
ガソリン税減税が持つ財政的意味
ガソリン税の旧暫定税率は、かつては道路整備の財源でしたが、現在は一般財源です。そのため、廃止による減収は、社会保障財源を含む国全体の財政余力を直接的に縮小させます。
1.5兆円という規模は、単年度で見れば限定的に見えるかもしれません。しかし、これは一時的な減税ではなく、恒久的な税収減です。財政の観点からは、
- 歳出削減
- 他税目での補填
のいずれかを選ばざるを得なくなります。
消費税が議論に上りやすい理由
代替財源として消費税が注目されやすいのには、理由があります。
- 税収規模が大きく、安定している
- 景気変動の影響を比較的受けにくい
- 高齢者を含め、幅広い世代が負担する
こうした特徴から、社会保障財源との結びつきが強く、財政調整の「受け皿」となりやすいのです。ガソリン税減税が進めば進むほど、「では消費税はどうするのか」という議論が避けられなくなります。
見えにくい負担の付け替え
ここで重要なのは、減税と増税が必ずしも同時に行われない点です。ガソリン税減税は即効性がありますが、消費税や社会保障負担の見直しは、数年後に段階的に行われることが多く、因果関係が見えにくくなります。
結果として、
- ガソリンは安くなった
- しかし別の負担が増えた
という状況が生まれやすくなります。負担の総額がどう変わったのかが分かりにくいこと自体が、制度理解を難しくしています。
社会保障給付削減という選択肢
もう一つの選択肢は、社会保障給付の抑制です。実際、医療や介護の自己負担見直し、高額療養費制度の調整など、給付と負担の見直しは断続的に行われています。
ただし、社会保障給付の削減は、現役世代だけでなく高齢者にも直接影響します。そのため、政治的なハードルは高く、結果として税での調整に頼りやすい構造が続いています。
世代間の視点で見るガソリン税減税
ガソリン税減税は、車を利用する現役世代や事業者にとってメリットが大きい一方、消費税や社会保障負担は、世代を超えて広く影響します。
この構図を整理すると、
- 現在の負担軽減
- 将来世代を含む広範な負担
という時間差が生じます。ガソリン税減税を評価する際には、この世代間のバランスも無視できません。
結論
ガソリン税の旧暫定税率廃止は、単独で完結する政策ではありません。恒久的な税収減は、最終的に消費税や社会保障負担の議論と結びついていきます。
重要なのは、「減税か増税か」という二択ではなく、どの税で、どの世代が、どのタイミングで負担するのかを可視化することです。ガソリン税減税は、社会保障財源を含めた税制全体の設計を改めて問い直す契機といえるでしょう。
参考
・日本経済新聞
「ガソリン税の旧暫定税率、きょう廃止 代替財源確保は途上」
2025年12月31日 朝刊
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
