ガソリン税の旧暫定税率廃止は、家計や事業者にとっては分かりやすい減税です。しかし、その影響は国の財政だけにとどまりません。ガソリン税は国税であると同時に、地方財政とも深く結びついています。
今回の減税による税収減は、国と地方を合わせて年間およそ1.5兆円とされています。本稿では、ガソリン税減税が地方財政や地方税制度にどのような影響を与えるのかを整理し、今後の論点を考えます。
ガソリン税と地方財政の関係
ガソリン税は国税ですが、その税収の一部は地方に配分される仕組みになっています。道路特定財源制度があった時代には、道路整備を通じて地方に資金が流れる構造が明確でした。
2009年に一般財源化された後も、ガソリン税収は地方交付税や補助金などを通じて、間接的に地方財政を支えてきました。つまり、ガソリン税は「国の税」でありながら、実質的には地方財政の下支えにもなっていたといえます。
税収減が地方に与える影響
旧暫定税率廃止による税収減は、まず国の歳入を直撃しますが、最終的な影響は地方にも及びます。国の税収が減れば、地方交付税の原資にも影響が出るからです。
地方自治体の多くは、
- 人口減少
- 高齢化による社会保障費の増加
- インフラ維持費の増大
といった構造的な課題を抱えています。その中で、安定的な財源であった燃料関連税収が減少することは、財政運営の不確実性を高める要因になります。
地方税での穴埋めは可能か
「国の減税なら、地方税で補えばよい」という議論が出ることもありますが、実務的には簡単ではありません。地方税は、
- 固定資産税
- 住民税
- 事業税
といった限られた税目が中心で、いずれも既に住民や企業にとって負担感の強い税です。
特に、人口減少が進む地域では、税率を引き上げても税収が増えにくいという問題があります。結果として、地方税による単純な穴埋めには限界があります。
国から地方への調整はどうなるか
今回のガソリン税減税では、代替財源について「27年度税制改正で結論を得る」とされました。この議論の中では、国と地方の財源配分が大きな論点になる可能性があります。
想定される方向性としては、
- 地方交付税による調整
- 他の国税を原資とした再配分
- 国の歳出削減による影響の地方への波及
などが考えられます。いずれにしても、地方自治体にとっては「国の判断が地方財政を左右する」構図が強まることになります。
地方自治の観点からの課題
地方分権の観点から見ると、国主導で決まる減税が地方財政に影響を与えることは、自治体の自律性を弱める側面があります。地方が独自に税率や税目を調整できる余地は限定的であり、国の税制改正の影響を受けやすい構造が続いています。
ガソリン税減税は、単なる税率変更ではなく、「国と地方の財政関係」を改めて浮き彫りにした事例ともいえます。
結論
ガソリン税の旧暫定税率廃止は、家計や企業にとっては歓迎される減税ですが、その裏側では地方財政への影響が静かに進行します。税収減の調整が国主導で行われる限り、地方は受け身にならざるを得ません。
今後の議論では、減税の是非だけでなく、国と地方がどのように財源を分かち合うのか、持続可能な地方税体系をどう構築するのかが問われます。ガソリン税減税は、地方財政のあり方を考える一つの転機といえるでしょう。
参考
・日本経済新聞
「ガソリン税の旧暫定税率、きょう廃止 代替財源確保は途上」
2025年12月31日 朝刊
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
