在宅介護が進むほど重要になる成年後見と意思能力低下への備え

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在宅介護サービスの充実により、高齢者が自宅で生活を続ける期間は長期化しています。
その一方で、見落とされがちなリスクがあります。それが、意思能力の低下と、それに伴う法的・実務的な空白です。

介護が必要になったからといって、すぐに判断能力が失われるわけではありません。しかし、在宅介護は「判断能力が徐々に低下していく過程」と重なりやすく、気づいたときには重要な手続きができなくなっていることも少なくありません。

在宅介護と意思能力低下は同時進行する

在宅介護では、本人が自宅で生活を続けながら、身体機能や認知機能が少しずつ低下していくケースが多く見られます。
この「少しずつ」という点が、対応を難しくします。

日常生活は問題なく送れていても、
・契約内容を正確に理解できない
・金銭管理が不安定になる
・複雑な判断を避けるようになる
といった兆候は、比較的早い段階から現れます。

しかし、家族も本人も「まだ大丈夫」と考え、対策を後回しにしがちです。

意思能力が低下すると何ができなくなるのか

意思能力が低下すると、次のような行為が難しくなります。

・不動産の売却や賃貸契約
・預貯金の解約や大口の資金移動
・遺言の作成や内容変更
・介護施設との入所契約

これらは、在宅介護と密接に関わる行為です。
つまり、在宅介護が続くほど、必要性は高まるのに、実行できなくなるリスクも同時に高まるという構造になっています。

成年後見制度が注目される理由

意思能力が不十分になった場合の制度として、成年後見制度があります。
家庭裁判所が選任した後見人等が、本人に代わって財産管理や契約行為を行う仕組みです。

在宅介護の現場では、
・介護費用の支払い
・医療・介護契約の締結
・不動産の管理
といった場面で、成年後見制度が必要になることがあります。

成年後見制度の限界

一方で、成年後見制度には注意すべき点もあります。

最大の特徴は、本人の意思能力が低下した「後」に始まる制度であるという点です。
そのため、
・本人の希望が十分に反映されにくい
・不動産処分などに家庭裁判所の許可が必要
・一度始めると原則として途中でやめられない
といった制約があります。

在宅介護が長期化する中で、「とりあえず後見をつければ安心」と考えると、かえって選択肢が狭まることもあります。

事前に備えるという発想の重要性

在宅介護と成年後見を考えるうえで重要なのは、「意思能力があるうちにできる備え」です。

例えば、
・財産管理や生活支援についての方針を共有しておく
・住まいの将来像を明確にしておく
・誰にどこまで任せるのかを整理しておく

これらを早い段階で言語化しておくことで、意思能力が低下した後の混乱を大きく減らすことができます。

在宅介護と家族の実務負担

在宅介護では、家族が実務を担う場面が多くなります。
しかし、法的には「家族だからできる」ことと「家族でもできない」ことが明確に分かれています。

本人名義の預金管理や契約行為を、善意で家族が行っていた場合でも、後に問題視されることがあります。
この点を理解せずに介護を続けると、相続時にトラブルが生じる可能性もあります。

判断能力低下は突然ではない

認知症などによる判断能力低下は、ある日突然起こるものではありません。
だからこそ、在宅介護が始まった段階で、「今ならできること」「将来できなくなること」を整理する必要があります。

在宅介護は、生活を支える仕組みであると同時に、人生の終盤に向けた準備期間でもあります。

結論

在宅介護の拡充は、高齢者にとって自宅での生活を支える重要な制度です。
しかし、その裏側では、意思能力低下という避けられないリスクが静かに進行しています。

成年後見制度は重要なセーフティネットですが、万能ではありません。
在宅介護が始まった「早い段階」から、意思能力低下を前提とした備えを行うことが、本人と家族の安心につながります。

参考

・日本経済新聞「特養待機者5万人減 在宅サービスが充実」(2025年12月31日朝刊)
・厚生労働省 介護保険制度に関する資料
・法務省 成年後見制度の概要


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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