インフレ定着と株高はなぜ同時に起きたのか―― 日経平均5万円時代の背景を読み解く ――

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2025年末、日本株は歴史的な節目を迎えました。日経平均株価は年末終値で5万円台に達し、年間上昇率は26%と、米国や欧州を大きく上回る水準となりました。
一時的な相場の過熱と見る向きもありますが、複数の経済指標や市場の動きを丁寧に追っていくと、今回の株高は単なる金融相場ではなく、日本経済の構造変化を背景とした側面が強いことが見えてきます。

本シリーズ第1回では、2025年の日本株高を「インフレ定着」という視点から整理し、なぜ今、日本経済が再評価されているのかを総論的に確認します。


株高は世界共通、その中で際立つ日本

2025年は世界的に株式市場が堅調でした。主要国で金融緩和が進み、投資マネーが膨張したことが大きな背景です。米国では利下げが行われ、欧州でも金融緩和が進みました。こうした環境のもと、生成AIを軸とした成長期待が株式市場を押し上げました。

その中でも、日本株の上昇率は際立っていました。米国の主要株価指数や欧州株を上回る上昇を、3年連続で記録しています。これは1980年代後半のバブル期以来の現象です。

重要なのは、日本株だけが「世界的な株高」に便乗したわけではないという点です。海外投資家の資金流入は、期待やテーマ性だけでなく、日本経済そのものの変化を反映した動きでもありました。


インフレ定着という大きな転換点

日本株再評価の核心にあるのが、インフレの定着です。
生鮮食品を除いた消費者物価は、2022年以降、政府・日銀が目標とする2%を安定的に上回る状況が続いています。かつての日本では、物価が上がらないことが前提となり、企業も家計も「値上げしない」「賃金が上がらない」行動様式に慣れてきました。

しかし現在は、価格転嫁が当たり前となり、賃上げも現実のものとして議論されています。春季労使交渉では5%以上の賃上げを目標とする動きが見られ、賃金と物価が同時に動く経済への転換が進みつつあります。

この変化は、企業収益に直接影響します。インフレ下では、名目売上や名目利益が拡大しやすくなります。実際、日本の名目GDPは600兆円台半ばまで拡大し、企業の利益成長も米国と遜色ない水準に達しています。


株価が映す「名目成長」の世界

株価は、将来の利益を織り込むものです。
デフレ下では、企業がどれほど効率化を進めても、売上や利益の伸びには限界がありました。一方、インフレが定着すると、名目成長が前提となり、株価評価の物差しそのものが変わります。

日本企業の1株当たり利益は、コロナ禍前と比べて大きく伸びています。これは単なるコスト削減の成果ではなく、価格転嫁や事業構造の転換が進んだ結果でもあります。こうした利益成長が、株高を支える基盤となっています。


AIと製造業復権への期待

2025年の相場では、生成AI関連の投資が世界的に拡大しました。日本株もその例外ではありません。
半導体製造装置、素材、電子部品など、日本企業が強みを持つ分野が再評価され、株価指数を押し上げました。

注目すべき点は、AIが単なるIT産業のテーマにとどまらず、日本の製造業全体の供給能力や技術力を再評価する契機となったことです。長らく低成長・低評価に甘んじてきた製造業が、再び成長ストーリーの中心に戻りつつあります。


海外マネーが見ているもの

2025年、日本株市場には大規模な海外資金が流入しました。
海外投資家が注目しているのは、短期的な株価水準ではなく、日本経済が「デフレ後」の世界に本当に移行したのかどうかです。

インフレの定着、賃上げ、名目GDPの拡大、そして産業政策への期待。これらが組み合わさり、日本経済が再び成長軌道に乗る可能性が意識されています。株高は、その期待を映す鏡とも言えます。


結論

2025年の日本株高は、単なる期待先行の相場ではありません。
インフレの定着を起点とした、名目成長経済への転換が、企業収益と株価評価を押し上げています。

もっとも、この流れが持続するかどうかは別問題です。金融政策、財政運営、賃金と物価のバランスなど、乗り越えるべき課題は少なくありません。

次回以降は、AI相場の実像、金利ある世界の影響、政策運営と市場信認、そして個人マネーの変化といったテーマを順に掘り下げていきます。
日本経済は本当に「変わった」のか。その答えを、複数の視点から検証していきたいと思います。


参考

・日本経済新聞「インフレ定着、際立つ株高」
・日本経済新聞「製造業・金融株に再評価 日経平均、年末終値5万円台」
・日本経済新聞「AI関連銘柄 半導体やクラウド、裾野広く」


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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