税制は世代間格差をどう補強してきたか― 住宅・相続・所得から見える構造的ゆがみ ―

FP
緑 赤 セミナー ブログアイキャッチ - 1

日本では、世代間格差の議論というと「若者の所得が伸びない」「高齢者が優遇されている」といった表現で語られることが少なくありません。しかし、世代間の差を固定化・拡大してきた要因は、賃金や雇用だけではありません。
住宅、相続、所得に関する税制は、長い時間をかけて世代ごとの資産形成の条件を変え、結果として世代間格差を補強してきました。

本稿では、住宅税制・相続税制・所得税制を手がかりに、税制がどのように世代間格差に作用してきたのかを整理します。


住宅税制と「取得できた世代」の優位

住宅税制の中心にあるのは、住宅ローン減税です。
この制度は、住宅取得を促進し、持ち家を通じた生活の安定を支える目的で導入・拡充されてきました。しかし、制度の恩恵を受けられるかどうかは、住宅を取得できたか否かに大きく依存します。

住宅価格が相対的に低く、所得の伸びが安定していた時代に取得した世代は、

  • 比較的低い負担で住宅を取得
  • ローン完済後は住居費の軽減
  • 住宅価格上昇による含み資産の増加

という好循環を享受してきました。一方、住宅価格が高騰した後の世代では、住宅ローン減税があっても、そもそも取得自体が困難になっています。
結果として、住宅税制は「取得できた世代」を有利にし、取得できなかった世代との差を埋める役割を十分に果たしていません。


相続税制と資産の世代内固定

相続税は、世代間の資産移転を調整する役割を持つ税制です。しかし、日本の相続税制では、居住用不動産に対する特例や評価方法により、住宅資産は比較的保護されやすい構造にあります。

自宅を所有する世帯では、

  • 相続税評価額が市場価格より低く抑えられる
  • 小規模宅地等の特例により課税価格が大幅に減少する

といった仕組みが働きます。その結果、住宅を起点とした資産は、税負担を大きく抑えた形で次世代へ移転しやすくなります。

これは、親世代が住宅資産を保有しているかどうかによって、子世代の出発点が大きく変わることを意味します。相続税制は格差是正の役割を持ちながらも、住宅資産については世代間格差を固定化する側面を持っています。


所得税制と勤労世代への集中

所得税制は、主に勤労所得を基礎に設計されています。
給与所得者は、毎年の収入に対して継続的に課税される一方で、資産保有による含み益は、売却などの実現がなければ課税されません。

この仕組みのもとでは、

  • 若年・現役世代は所得税・社会保険料の負担を受け続ける
  • 高齢期に入ると、年金課税はあるものの負担は相対的に軽減される
  • 住宅などの資産価値上昇は課税されない

という構造が生まれます。
住宅を保有している世代ほど、勤労期の税負担を資産価値の上昇で相殺しやすく、住宅を持たない世代ほど、純粋な所得課税の負担が重くなります。


税制が前提としてきた「標準的ライフコース」

住宅・相続・所得に関する税制は、
「現役期に安定した雇用で所得を得て住宅を取得し、老後は持ち家で暮らし、次世代に資産を残す」
という標準的ライフコースを暗黙の前提として設計されてきました。

しかし、このモデルが成立しにくくなった現在においても、税制の前提は大きく変わっていません。その結果、標準モデルから外れる世代や世帯ほど、不利を被りやすい構造が残っています。


世代間格差は「税制の結果」として現れる

世代間格差は、特定の世代が意図的に優遇された結果というよりも、長年にわたり積み重ねられてきた税制の帰結として現れています。
住宅を取得し、相続できる世帯は、税制上のメリットを積み重ねることができます。一方、取得できず、相続も受けられない世帯では、所得課税と住居費負担が重なります。

税制は中立的に見えて、実際には資産保有の有無によって効果が大きく異なる仕組みを内包しています。


結論

住宅・相続・所得に関する税制は、日本の世代間格差を是正するどころか、結果として補強してきた側面があります。
これは制度設計が誤っていたというより、社会構造の変化に税制が十分に追いついていないことを意味します。

今後、世代間格差を緩和するためには、

  • 持ち家と賃貸に中立的な住宅税制
  • 相続を前提としない生活保障
  • 勤労世代に過度に集中しない税負担のあり方

を含めて、税制全体を再設計する視点が不可欠ではないでしょうか。


参考

・日本経済新聞「経済教室」
 住宅確保をどう支えるか(上・下)
・国税庁 各種税制資料
・厚生労働省 社会保障・年金関連資料


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

タイトルとURLをコピーしました