住宅確保をどう支えるか― 金融頼みの持ち家促進からの脱却を考える ―

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首都圏を中心に住宅価格の高騰が続いています。東京23区の新築マンション価格の中央値は約9,000万円に達し、一般世帯の所得水準からみて取得のハードルは著しく高くなりました。新築を断念した世帯が中古住宅や賃貸住宅に流れ、その結果として中古価格や家賃も上昇するという連鎖が起きています。
こうした現象は一時的な需給のゆがみではなく、長年にわたる住宅政策と金融のあり方が生み出してきた構造的な問題といえます。

本稿では、平山洋介氏の論考を手がかりに、日本の住宅政策がどのように「金融頼み」になってきたのかを整理し、今後の住宅確保のあり方を考えます。


住宅価格高騰の実態と「アフォーダビリティ」の低下

住宅価格は上昇する一方で、住宅の広さはむしろ縮小しています。首都圏の新築マンションの平均専有面積は、この10年で約5平方メートル減少しました。価格と面積を同時に見ると、居住水準の改善とは言い難い状況です。
さらに問題なのは、住宅価格が「買えるかどうか」ではなく、「どこまで借りられるか」によって決まる局面が強まっている点です。低金利のもとで、返済期間35年超、場合によっては50年に及ぶ住宅ローンが一般化し、若年世帯ほどペアローンや収入合算に依存する傾向が強まっています。


住宅市場を動かしてきた「金融化」の歴史

日本の住宅市場が金融化した背景は1970年代にさかのぼります。石油危機以降、政府は住宅建設を景気対策の柱とし、住宅金融公庫による融資拡大を進めました。その後、バブル期、不況期を通じて融資条件は緩和され、住宅ローンは経済成長を下支えする装置として機能してきました。
1990年代半ば以降は、住宅ローン金利の自由化や住宅金融公庫の廃止により、住宅金融は民間市場に委ねられます。さらに住宅ローン減税や金融緩和が重なり、住宅取得はますます金融商品として扱われるようになりました。


一般世帯が支える住宅価格

マンション価格の高騰は、富裕層や海外投資家だけでは説明できません。統計を見ると、都心部でも海外在住者の購入割合は限定的です。
価格を押し上げている最大の要因は、一般世帯の厚みのある住宅需要です。超低金利ローン、高い融資率、超長期返済といった金融商品の発達が、一般世帯の上位層に高額物件を「買える力」を与えました。その結果、住宅価格は所得以上に押し上げられてきたのです。


住宅ローン拡大が内包するリスク

住宅ローンの拡大は、同時にリスクの拡散でもあります。金利上昇局面では変動金利ローンの返済負担が増加します。超長期ローンでは、役職定年や退職後も返済が続く可能性があります。
ペアローン世帯も、将来にわたり現在の収入を維持できる保証はありません。住宅価格が下落すれば、担保割れに陥るリスクもあります。住宅を所有すること自体が、家計を不安定にする要因になりかねない状況が生まれています。


持ち家重視政策の限界

長年の持ち家促進政策にもかかわらず、若年層を中心に持ち家率は低下しています。一方で、高齢層では持ち家率が高く、住宅取得層の中でも負債を抱える層と、現金購入に近い層との二極化が進んでいます。
東京都が進めるアフォーダブル住宅の整備や、住宅ローン減税の面積要件緩和といった施策は一定の意義を持ちますが、供給規模や所得逆進性といった課題も残ります。


賃貸を含めた「中立的な住宅政策」へ

日本では、家族世帯が安心して住める賃貸住宅への支援が極めて限定的でした。高齢期の家賃負担を考えると、住宅を所有し、ローンを完済することが事実上の前提となってきました。
しかし、持ち家一辺倒の政策は、住宅市場の過熱と家計のリスクを拡大させています。持ち家と賃貸の双方に中立な支援を行い、取得以外の選択肢を現実的なものとして整えることが求められています。


結論

住宅は本来、生活を支える基盤です。しかし現在の日本では、住宅が高度に金融化され、人生そのものが長期債務の担保に組み込まれるような状況が生まれています。
金融に依存した持ち家促進から脱却し、住宅を「投資対象」ではなく「生活の基盤」として位置づけ直すことが、これからの住宅政策には必要ではないでしょうか。


参考

・日本経済新聞「経済教室」
 住宅確保をどう支えるか(下)金融頼みの取得促進 脱却を(2025年12月30日朝刊)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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