日本の労働力人口は、人口減少が進む中でも拡大を続け、7000万人規模に達しようとしています。女性や高齢者の就労拡大、パートなど短時間勤務の増加がこの流れを支えています。
一方で、労働時間の総量や働き方の質を見ると、制度的な制約が依然として大きな影響を与えています。本稿では、「年収の壁」とAI活用という二つの視点から、今後の労働供給の可能性を考えます。
労働力は増えても、時間は増えていない
労働力人口が増加する一方で、1人当たりの平均労働時間は減少傾向にあります。
この背景には、働き方改革による時間管理の徹底に加え、パートや短時間勤務者の増加があります。しかし、それだけでなく、税や社会保障制度による就業調整も大きな要因となっています。
「年収の壁」が生む就業調整
一定の年収を超えると、税負担や社会保険料負担が急増し、手取りが減少するという構造は、多くの短時間労働者にとって強い行動制約となっています。
政府は所得税の非課税枠を引き上げましたが、社会保険の加入要件や扶養制度に関する壁は残っています。このため、「もう少し働く」という選択が合理的でない状況が続いています。
労働時間規制だけでは解決しない
労働時間規制の緩和によって、働ける人が長く働く環境を整えることは、一つの対応策ではあります。
しかし、年収の壁が存在する限り、短時間労働者が労働時間を増やす動機は弱く、労働供給全体の底上げにはつながりにくいと考えられます。制度の歪みを放置したまま時間規制を議論しても、効果は限定的です。
AI活用がもたらす可能性
こうした制約の中で注目されるのが、AI活用による働き方の変化です。
AIは人を代替する存在として語られがちですが、実務の現場では、定型業務を補完し、人の時間を高度業務に振り向ける役割を果たしています。
短時間勤務であっても、AIの支援を受けることで高い付加価値を生み出せる環境が整えば、女性や高齢者の就労継続はさらに進む可能性があります。
労働時間の意味が変わる
AI活用が進めば、労働時間の長さそのものよりも、どの業務に時間を使うかが重要になります。
この変化は、労働時間規制の在り方にも影響を与えます。硬直的な時間管理と、柔軟な働き方をどう調和させるかが、今後の大きな政策課題となります。
結論
労働力7000万人時代の本質的な課題は、時間を延ばすことではありません。
年収の壁を含む制度的制約を見直し、AI活用によって短時間でも価値を生み出せる環境を整えることが、持続的な労働供給拡大につながります。
労働時間規制、賃上げ、AI活用は、それぞれが独立したテーマではなく、日本の働き方全体を再設計するための一体的な課題であると言えるでしょう。
参考
・日本経済新聞「労働力、初の7000万人視野 女性・高齢者・パート勤務増加」
・日本経済新聞「労働時間規制 残業上限、原則は月45時間」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
