海外勤務や外資系企業での就労が広がる中、海外から支給される給与や株式報酬を受け取るケースは珍しくなくなりました。
一方で、これらの所得は支給形態が複雑であるため、課税関係や申告方法を誤りやすい分野でもあります。
特に注意が必要なのは、
「どこで働いたか」と「誰から、どのように支給されたか」は必ずしも一致しない点です。
海外給与の基本的な考え方
給与所得の課税関係は、原則として役務の提供地を基準に考えます。
- 日本で勤務した対価としての給与
- 海外で勤務した対価としての給与
この区分により、国内源泉所得か国外源泉所得かが整理されます。
支払者が日本法人か外国法人かだけで判断することはできません。
年の途中で勤務場所が変わる場合
海外赴任や帰任により、年の途中で勤務場所が変わる場合には、給与を期間対応で按分する必要があります。
たとえば、
- 出国前の日本勤務分
- 出国後の海外勤務分
を区分し、それぞれの居住区分とあわせて課税関係を整理します。
「その年の給与だから一括で処理する」という考え方は、国際税務では通用しません。
外国親会社から支給される給与
日本法人に勤務していても、給与の一部または全部が外国親会社から支給されることがあります。
この場合も重要なのは、
- どの期間の勤務に対応する報酬か
- 日本で行った役務に対する対価か
という点です。
支払元が外国であっても、日本勤務に対応する部分については、日本の課税関係が生じます。
株式報酬が関係する場合の注意点
海外企業では、給与の一部として株式報酬が付与されることがあります。
代表的なものとしては、
- ストック・オプション
- リストリクテッド・ストック
- リストリクテッド・ストック・ユニット
- 従業員持株制度
などがあります。
これらは現金給与と異なり、課税のタイミングや所得区分が異なるため、注意が必要です。
株式報酬と居住区分の関係
株式報酬では、次の点が実務上の論点になります。
- 権利付与時の居住区分
- 権利確定・行使時の居住区分
- 日本勤務期間との対応関係
たとえば、日本で勤務していた期間に付与されたストック・オプションを、非居住者となった後に行使した場合でも、日本での勤務に対応する部分については課税関係が生じることがあります。
調書制度との関係
外国親会社等から支給される株式報酬については、経済的利益に関する調書が提出されることがあります。
この調書が提出されている場合、税務当局は株式報酬の存在を把握しています。
「海外の話だから分からないだろう」と考えるのは現実的ではありません。
申告内容と調書の内容が整合しているかを確認することが重要です。
実務で起こりやすい誤り
海外給与や株式報酬に関して、次のような誤りがよく見られます。
- 支払者が外国だから申告不要と判断している
- 株式報酬を申告対象外としている
- 居住区分の変更を考慮していない
これらはすべて、勤務実態と居住区分の整理不足が原因です。
結論
海外給与や株式報酬の課税関係は、
支払元ではなく、勤務内容と期間、居住区分を軸に整理する必要があります。
特に株式報酬は、付与から行使・確定まで時間差があるため、
過去の勤務状況を含めて検討する視点が欠かせません。
次回は、海外金融取引(配当・株式・FX等)の申告と損益通算について整理します。
参考
- 東京税理士協同組合教育情報事業
「全国統一研修会 令和7年分確定申告に向けて 個人の国際税務」研修資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
