住宅価格の上昇と共働き世帯の増加を背景に、夫婦で住宅ローンを組むケースが急増しています。ペアローンや収入合算を活用すれば、単独では届かない物件も選択肢に入ります。一方で、離婚や収入減といったライフイベントをきっかけに返済が立ち行かなくなり、競売や任意売却に至る事例が増えつつあります。
住宅ローンは長期間にわたる家計の中核です。本稿では、夫婦で住宅ローンを組む際に見落とされがちなリスクと、借入時に考慮すべき視点を整理します。
住宅ローン破綻は珍しい話ではなくなっている
近年、住宅ローンの返済が困難となり、競売や任意売却に至る件数が増加傾向にあります。背景の一つが借入額の高額化です。住宅取得時の平均借入金はこの20年余りで大きく膨らみ、年収に対する借入倍率も上昇しています。
購入時点では無理なく返せると考えていても、返済期間中に環境が変わることは珍しくありません。離婚、病気、失業、事業不振など、想定外の出来事が家計を直撃すると、返済計画は簡単に崩れます。
ペアローン・収入合算の仕組みと誤解
夫婦で住宅ローンを組む方法には、大きく分けて次の二つがあります。
一つはペアローンです。夫婦それぞれが金融機関と個別に契約し、互いに連帯保証人となります。もう一つは収入合算で、主債務者が一人、もう一方が連帯債務者または連帯保証人となる形です。
いずれも借入可能額が増える反面、重要な共通点があります。それは、どちらか一方が返済できなくなれば、もう一方が全ての返済責任を負うという点です。離婚をしても、ローン契約が自動的に解消されることはありません。
「家は二人のものだが、借金はそれぞれ全額責任を負う」。この構造を十分に理解しないまま契約してしまうことが、後悔につながる大きな要因です。
離婚・収入減が引き金になる現実
夫婦関係の変化は、住宅ローンに直接影響します。離婚後も住み続ける側が返済を引き受けられなければ、滞納が始まります。滞納が続けば、金融機関から一括返済を求められ、最終的には競売手続きに進みます。
競売を避ける手段として任意売却がありますが、売却額がローン残高を下回れば、住宅を失った後も債務は残ります。精神的・経済的な負担は非常に大きく、生活再建に長い時間を要することになります。
「借りられる額」と「返せる額」は別物
住宅ローンを検討する際、多くの人が金融機関の提示する借入可能額を基準に考えがちです。しかし、これはあくまで審査上の上限にすぎません。
本来重視すべきは、将来の変化を織り込んだ上で無理なく返済を続けられるかという視点です。育児や教育費、老後資金、働き方の変化などを考慮すると、余裕のない返済計画は大きなリスクを内包します。
特に共働きを前提とした借入では、「一人分の収入でも一定期間は耐えられるか」という想定が欠かせません。
金利上昇時代における負債リスク
金利が上昇する局面では、返済額そのものが増える可能性があります。変動金利を選択している場合、家計への影響はより顕著になります。
低金利が続いた時代の感覚で高額のローンを組むと、環境変化への耐性が弱くなります。負債は資産形成の手段である一方、過大になれば家計の足かせになります。
結論
夫婦で住宅ローンを組むこと自体が問題なのではありません。問題は、楽観的な前提だけで長期の負債を抱えてしまうことにあります。
住宅ローンは人生設計そのものです。借入時には、最悪のケースも含めて現実的に想定し、余裕を持った計画を立てることが不可欠です。住まいを守るためには、まず家計を守る視点が求められます。
参考
・日本経済新聞「夫婦の住宅ローン、落とし穴 ― 背伸びの借り入れ→離婚・収入減で窮地」
・住宅金融支援機構 住宅ローン利用実態調査
・三井住友トラスト・資産のミライ研究所 住宅ローンに関する調査資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

