2025年12月、日銀は政策金利を0.75%へ引き上げました。これにより10年国債利回りは2%を超え、およそ四半世紀ぶりの水準に達しています。
「長期金利が制御不能になるのではないか」「国債の買い手はいなくなるのではないか」といった声も聞かれますが、本当に今は“異常事態”なのでしょうか。
本稿では、長期金利の水準そのものではなく、終着点をどう考えるかという視点から、日本経済と投資家行動を整理します。
「2%超え」は異常か
長期金利が2%を超えたこと自体に、過度な意味を持たせる必要はありません。
過去の日本では、日次で1%以上金利が変動する局面も経験してきました。それと比べれば、足元の動きは急騰というより、あくまで緩やかな上昇過程と位置づけられます。
重要なのは、日本が長年続いたデフレ的環境から脱し、先進国として一般的なインフレ率を持つ国へ移行しつつあるという認識を持てるかどうかです。
「金利が上がれば買い手が出る」という誤解
金利上昇局面では「利回りが上がったから債券を買う投資家が増える」という見方が語られがちです。
しかし、利上げが継続すると見込まれる局面で、長期投資家が積極的に買いに出ることは多くありません。
それは合理的な行動です。将来さらに金利が上がる可能性がある中で、あえて今の水準で固定利回りを確定させる必要はないからです。
この段階で「国債に買い手がいない」と悲観するのは、時期尚早といえるでしょう。
投資家が動く条件は「物価の落ち着きどころ」
長期金利の終着点を考える上で最も重要なのは、日本の物価上昇率がどの水準で安定するのかという見通しです。
かつては潜在成長率を前提に、物価上昇率0.5~1%、政策金利1%前後という想定が成り立ちました。その前提に立てば、10年金利2%は十分魅力的な水準でした。
しかし現在は状況が異なります。
供給網の分断、人手不足の常態化、貿易構造の変化による円安圧力、さらに各国での財政主導型投資の拡大など、インフレを下支えする要因が複合的に存在しています。
この環境下では、日本の物価上昇率が2%を超える水準で定着する可能性を無視できません。
想定すべき金利水準
仮に物価上昇率が2%程度で安定するとすれば、政策金利も1%にとどまるとは考えにくく、2%前後が視野に入ります。
その場合、期間リスクを反映するタームプレミアムを加味すると、10年金利は2.5%~3.5%程度が一つの想定レンジとなります。
これは悲観的な予測というより、「インフレがある世界では普通の金利水準」を前提にした議論にすぎません。
結論
長期金利の上昇局面では、どうしても日々の数字に目が向きがちです。しかし、投資家行動を左右するのは短期的な変動ではなく、物価と政策金利の落ち着きどころです。
金利が上がり切ったと市場が認識した段階で、初めて長期投資家は本格的に動き出します。
足元の2%超えに一喜一憂するのではなく、日本経済がどのインフレ水準に定着するのかを見極めることこそが、長期金利の終着点を読むための本質的な視点といえるでしょう。
参考
・日本経済新聞「長期金利の終着点を見極める」(2025年12月25日夕刊)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

