中古住宅の購入を検討する際、多くの人がまず気にするのは「購入価格」や「立地」、「間取り」です。しかし、実際の暮らしが始まってから家計に大きな影響を与えるのは、購入後に発生する修繕費です。
特に築年数が進んだ住宅では、修繕は避けて通れません。戸建てとマンションでは修繕の仕組みも異なり、その違いを理解しないまま購入すると、将来思わぬ負担を抱えることになりかねません。
本記事では、中古住宅を選ぶ際に押さえておきたい修繕費の考え方と、資金計画のポイントについて整理します。
中古住宅では修繕費が前提になる
中古住宅は、新築と比べて価格が抑えられている反面、建物の状態には大きなばらつきがあります。
屋根や外壁、防水、給排水管といった部分は、築年数とともに劣化が進み、定期的な修繕が必要になります。
ある住宅調査会社の試算によると、延床面積約116平方メートルの木造2階建て住宅では、新築から30年間で、雨漏りやシロアリ対策などの基礎的な修繕費だけでも約1,200万円程度かかるとされています。
これは新築時からの累計であり、中古住宅で既に劣化が進んでいる場合には、短期間でまとまった修繕費が必要になることもあります。
「中古だから安い」という印象だけで判断すると、購入後の支出を見誤る可能性があります。
戸建て住宅は「自分で積み立てる」必要がある
マンションと異なり、戸建て住宅には修繕積立金の仕組みがありません。
そのため、購入後の修繕費はすべて自己管理となります。
一見すると、毎月の積立金がない分、家計が楽になるように感じるかもしれません。しかし実際には、計画的に貯蓄や運用をしておかないと、必要な修繕ができず、住宅の価値や安全性を損なうことになりかねません。
修繕は突発的に発生するものではなく、一定の周期で繰り返されます。
屋根や外壁、防水工事など、「いつ頃・どの程度の費用がかかるのか」をあらかじめ想定し、ライフプランに組み込んでおくことが重要です。
修繕は「命に関わる支出」でもある
修繕費は、単なる快適性の問題ではありません。
雨漏りやシロアリ被害を放置すると、柱や梁などの構造部分が劣化し、耐震性能に影響を及ぼすことがあります。
過去の大地震の調査では、構造部材に腐朽やシロアリ被害があった住宅ほど、被害が大きくなる傾向が指摘されています。
どれほど新しい耐震基準で建てられた住宅でも、適切な修繕が行われていなければ、安全性は確保できません。
修繕費は、後回しにしてよい支出ではなく、住宅を守り、家族の命を守るための優先度の高い支出だと考える必要があります。
マンションでも修繕費の不安は残る
マンションの場合、共用部分の修繕は管理組合が行い、その費用を修繕積立金として毎月積み立てる仕組みが一般的です。
一見すると、戸建てより安心に思えるかもしれません。
しかし、国の調査によると、長期修繕計画に対して積立金が不足しているマンションは全体の約3割を超えています。
実際、修繕費が足りず、金融機関から借り入れをして大規模修繕を行う管理組合も増えています。
借り入れを行えば、その返済分を含めて積立金が引き上げられ、将来的な管理費負担が増えることになります。
積立金不足のリスクはマンション特有の問題
マンションでは、修繕を怠った場合のリスクが戸建て以上に大きくなることがあります。
例えば、外壁の劣化を放置した結果、タイルが落下して通行人に被害が出れば、管理組合が責任を問われる可能性もあります。
修繕を「先送り」する選択は、結果的にリスクと負担を増やすことにつながります。
その意味では、マンションこそ修繕計画と積立金の状況を慎重に見極める必要があります。
中古マンション選びで確認すべきポイント
中古マンションを検討する際、住宅ローン返済額を抑えるために「積立金が安い物件」を選びたくなることがあります。
しかし、積立金が低すぎる物件は、将来の負担増を抱えている可能性があります。
国は、マンションの規模や階数に応じた積立金の目安を示しています。
まずは、この目安と現在の積立金水準を比較することが第一歩です。
仮に目安に達していなくても、管理組合で積立金の見直しや修繕計画の再検討が行われていれば、改善される可能性はあります。
その判断材料として重要なのが、管理組合の総会や理事会の議事録です。
購入前に、議事録や長期修繕計画の開示を求めることで、管理組合の姿勢や将来の見通しを確認できます。
資料の開示に消極的な物件については、慎重に検討した方がよいでしょう。
中古住宅は「手をかける価値」がある
中古住宅は注意点が多い一方で、大きな魅力もあります。
新築住宅は購入時の満足度が最も高く、そこから徐々に下がっていく傾向がありますが、中古住宅は適切な修繕や手入れを行うことで、住み心地や満足度が高まっていく余地があります。
戸建てであっても、マンションであっても、修繕を前向きに捉え、計画的に資金を準備することで、住宅は「負担」ではなく「育てる資産」になります。
結論
中古住宅を選ぶ際には、購入価格だけでなく、修繕費を含めた長期的な資金計画が欠かせません。
戸建てでは自助努力による積立が、マンションでは管理組合の運営状況の見極めが重要になります。
修繕費は避けられない支出であり、同時に安全と資産価値を守るための投資でもあります。
その前提を理解したうえで住宅を選ぶことが、中古住宅購入を後悔しないための大きなポイントと言えるでしょう。
参考
・日本経済新聞
「マネー相談 黄金堂パーラー 中古住宅の選び方(下)修繕費」
・国土交通省
「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」
・住宅調査会社による住宅修繕費試算資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

