2025年末にかけて、世界の商品市場で金・銀・銅の価格がそろって最高値を更新しています。とりわけ金と銀といった貴金属、そして産業金属の代表格である銅が同時に上昇する動きは、相場環境の大きな変化を示しています。
今回の価格上昇は、単なる投機的な動きにとどまらず、ドルを軸とした国際金融の構造や、インフレ・財政不安、さらにはAI時代の産業構造の変化と密接に関係しています。本稿では、金・銀・銅が同時に買われている背景を整理し、今後の見通しについて考えていきます。
金と銀が買われる理由 ―「無国籍通貨」としての役割
金や銀は、古くから価値の保存手段として用いられてきました。特に金は、特定の国家や中央銀行の信用に依存しない資産であり、「無国籍通貨」とも呼ばれます。
近年、米国では高めのインフレが長期化するとの見方が根強く、財政赤字の拡大に対する警戒感もくすぶっています。その結果、ドルの購買力が将来的に低下するリスクを意識する投資家が増えています。こうした局面では、法定通貨の代替として金が選好されやすくなります。
銀も同様に貴金属としての性格を持ちつつ、工業用途の比重が高い点が特徴です。インフレヘッジ資産としての側面に加え、実体経済の回復や設備投資の拡大局面では需要が増えやすく、価格の上昇に拍車がかかります。今回、銀価格が金以上の上昇率を示しているのは、こうした二面性が影響していると考えられます。
中央銀行と新興国の動き
金価格を押し上げているもう一つの要因が、中央銀行による金の保有増加です。特に新興国では、外貨準備に占めるドルの比率を引き下げ、資産の分散を進める動きが続いています。
この背景には、地政学リスクの高まりや、制裁リスクへの警戒があります。ドル資産は流動性が高い一方、政治的な影響を受けやすい側面があります。その点、金は実物として保有でき、信用リスクが相対的に小さいため、準備資産としての魅力が再評価されています。
銅価格上昇の本質 ― 需給逼迫とAI需要
銅の価格上昇は、金や銀とはやや異なる要因が中心です。最大のポイントは、供給制約と需要拡大が同時に進んでいることです。
主要産出国の鉱山での事故や操業制限により、供給面では不安定さが増しています。一方、需要面ではAI関連投資の拡大が大きな影響を与えています。データセンターや電力インフラの整備には大量の銅が必要であり、世界的なAI投資ブームが銅需要を押し上げています。
さらに、銅はドル建てで取引されるため、ドル安が進行すると名目価格が上昇しやすい性質を持ちます。この点では、貴金属と共通する追い風が吹いているといえます。
実物資産に向かうマネーの共通背景
金・銀・銅に共通するのは、「実物資産」であるという点です。インフレ局面では、現金や債券の実質価値が目減りしやすく、実物資産への資金シフトが起こりやすくなります。
加えて、金融政策の先行きが不透明な中で、将来の金利や為替を正確に見通すことは困難です。その結果、通貨価値の変動に左右されにくい資産を一定程度保有したいという心理が、市場全体に広がっています。
今後の注意点 ― 上昇が永続するとは限らない
もっとも、金属価格の上昇がこのまま続くと決めつけるのは危険です。仮に米国でインフレが再燃し、金融引き締めが再開されれば、ドル高が進み、金属価格の調整要因となる可能性があります。
また、短期間で価格が急騰した局面では、投機筋の利益確定による急落も起こり得ます。実物資産は「安全」と語られがちですが、価格変動リスクが消えるわけではありません。
結論
金・銀・銅がそろって最高値を更新している背景には、ドル安への警戒、インフレ懸念、中央銀行の資産分散、そしてAI時代の構造的な需要拡大があります。これらは一時的な材料ではなく、世界経済の中長期的な変化を反映した動きといえます。
一方で、金融政策や投機的な動向次第では、価格調整が生じる可能性も否定できません。実物資産への関心が高まる今こそ、「なぜ上がっているのか」「どのリスクを織り込んでいるのか」を冷静に整理する姿勢が重要になっています。
参考
・日本経済新聞「金銀銅そろって最高値 ドル安警戒、実物資産にマネー」(2025年12月24日夕刊)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

