親の介護が現実味を帯びてくると、多くの人が「どの施設を選べば安心か」という問いに直面します。
有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設など、選択肢は多様化していますが、その一方で制度の違いが十分に理解されないまま決定されるケースも少なくありません。
施設選びの段階での誤解は、後からの負担増や転居、家族の後悔につながりやすく、注意が必要です。
「民間施設=手厚くて安心」という思い込み
有料老人ホームやサ高住は、設備が新しく、説明も丁寧で「安心感」が強調されがちです。そのため、「公的施設より手厚い」「最後まで面倒を見てもらえる」と受け取られることがあります。
しかし、実際には介護・医療サービスの多くが外付けで提供され、利用すればするほど費用が積み上がる仕組みです。月額費用が一定に見えても、医療対応や介護度の上昇に伴い、自己負担が想定以上に増えることがあります。
介護保険と自己負担の関係が見えにくい
民間施設では、介護保険サービスと保険外サービスが混在して提供されるため、「どこまでが公的給付で、どこからが全額自己負担か」が分かりにくくなりがちです。
特に、介護保険の自己負担割合が1割から2割、場合によっては3割となると、同じサービス量でも支払額は大きく変わります。
契約時に「今の介護度・負担割合」だけで判断すると、将来の負担増を見落とすリスクがあります。
「入院すれば何とかなる」という誤解
介護が重くなった場合、「いざとなれば病院に入ればよい」と考える家族もいます。しかし、医療機関は生活の場ではなく、長期入院が前提ではありません。
医療的必要性が薄れると退院を求められ、再び施設探しに追われるケースもあります。この繰り返しは、本人の負担だけでなく、家族の精神的・経済的負担を増大させます。
特養・老健を「選択肢から外してしまう」問題
特養や老健は、「待機が長い」「医療対応が弱い」というイメージから、早い段階で候補から外されがちです。
確かに制約はありますが、公的性格を持ち、費用負担が比較的安定している点は大きな利点です。
特に老健は、医療と介護の中間施設として位置づけられており、状態に応じた支援を受けながら次の生活の場を考える役割を持っています。制度の目的を理解せずに避けてしまうのは、選択肢を狭める結果になります。
契約内容と「将来の出口」を確認する
施設選びでは、現在の生活だけでなく、状態が悪化した場合の対応を確認することが重要です。
- 医療対応が必要になった場合はどうなるのか
- 介護度が上がったときに追加費用はどの程度かかるのか
- 看取りまで対応可能か、それとも転居が必要か
これらを事前に把握しておくことで、想定外の事態を減らすことができます。
結論
親の施設選びは、「今の安心感」だけで判断すると、制度上の落とし穴に気づきにくくなります。
介護保険の仕組み、自己負担割合の変化、医療との関係を踏まえたうえで、特養・老健を含めた複数の選択肢を比較することが重要です。
施設は「入ったら終わり」ではなく、生活と制度の中間にある通過点でもあります。制度を正しく理解することが、親にとっても家族にとっても、後悔の少ない選択につながります。
参考
・日本経済新聞「特養・老健の再活用を進めよ」
医師・一般社団法人みんなの健康らぼ代表理事 坪谷透(2025年12月24日 朝刊)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

