生成AIの進化は、最も知的集約度が高いとされてきたコンサルティング業界にも、容赦なく影響を及ぼし始めています。
マッキンゼーやアクセンチュアといった世界的な大手コンサルが相次いで大規模な人員削減に踏み切ったという報道は、「AIは補助ツールにすぎない」という従来の見方を大きく揺さぶるものでした。
今回の動きは、景気循環による一時的な調整ではなく、コンサルというビジネスモデルそのものが転換点を迎えていることを示しています。
コンサル業務のどこがAIに代替されるのか
コンサルティング業務は、大きく分けると以下のような工程で構成されています。
・情報収集・調査
・データ整理・分析
・仮説構築
・提言の言語化・資料化
・意思決定支援・実行支援
このうち、生成AIが急速に代替し始めているのが、前半部分の「調査・整理・下書き」にあたる領域です。
OpenAIの「ディープリサーチ」のように、ネット上の情報を自動収集し、一定の構造をもったレポートとしてまとめる機能が普及すれば、若手コンサルが担ってきた基礎作業の多くは、短時間かつ低コストで実行可能になります。
専門家の予測では、従来人が行ってきた業務の2~3割程度は、AIに代替される可能性があるとされています。
なぜ大手コンサルほど影響が大きいのか
今回の人員削減は、主に間接部門や若手層を中心に行われています。
その背景には、コロナ禍以降の急拡大があります。
リモートワークの普及やDX需要の高まりを受け、コンサル各社は人員を大幅に増やしてきました。しかし、AIの進化によって「人を増やすことで付加価値を生む」モデル自体が成立しにくくなっています。
特に、
・大量採用
・ピラミッド型組織
・若手が作業を担い、上位層が判断する構造
を前提としてきた大手ほど、AIによる効率化の影響を直接受けやすい構造にあります。
AIは雇用を奪うのか、それとも再配置を促すのか
注目すべきは、すべての企業が単純に「削減」で終わらせているわけではない点です。
IBMの事例では、人事部門の業務の大半をAIに置き換えた結果、予算を大幅に削減しつつ、余剰人員を再教育して戦略部門などに再配置しています。
つまり、AIは「仕事を消す」のではなく、
・どの仕事に人を配置するのか
・人にしかできない価値は何か
を、企業に強制的に問い直している存在だと言えます。
コンサルに残る価値とは何か
AIがどれほど進化しても、次のような領域は依然として人の関与が不可欠です。
・組織内部の利害調整
・経営者の価値観や覚悟を引き出す対話
・不完全な情報下での意思決定支援
・実行段階での伴走と修正
今後のコンサルは、「調べる人」ではなく、「考え続ける人」「決める人を支える人」へと役割を移していく必要があります。
その意味で、AIを使えないコンサルではなく、AIを使いこなした上で、人にしかできない付加価値を出せるコンサルだけが生き残る構造になっていくと考えられます。
結論
今回の人員削減は、AIによる一時的な合理化ではなく、コンサル業界の構造転換の始まりです。
大量採用・長時間労働・属人的スキルに依存したモデルは限界を迎え、知的労働そのものの定義が書き換えられつつあります。
これはコンサル業界だけの話ではありません。
士業、金融、企画、管理部門など、知識と判断を価値としてきた職種すべてに共通するテーマです。
AI時代に問われているのは、「何を知っているか」ではなく、「何を判断し、どう責任を持つのか」です。
コンサル業界の荒波は、知的労働全体にとっての先行指標と言えるでしょう。
参考
・日本経済新聞
「AI進化、コンサルに荒波 マッキンゼー、従業員1割削減」
・Bloomberg
・OpenAI 公開資料
・IBM コンサルティング部門コメント
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
