事業承継を考える際、「今の制度でどう進めるか」に意識が集中しがちです。しかし、税制は毎年のように見直され、要件や扱いが変わることを前提に設計されています。
この現実を踏まえると、事業承継は「固定された制度」に合わせるものではなく、「制度が変わること」を前提に組み立てる必要があります。税制改正を前提に考えるという発想は、制度に振り回されないための重要な視点です。
税制は「変わらない前提」では使えない
事業承継税制をはじめとする関連制度は、恒久化されたものでも、運用や要件が将来にわたって不変であることを保証するものではありません。
特例措置の延長、要件の見直し、事後管理の厳格化などが繰り返されてきた経緯を見れば、税制は常に調整対象であることが分かります。制度が続くかどうかではなく、制度が変わった場合にどう対応できるかを考えることが重要です。
承継計画に「揺らぎ」を組み込む
税制改正を前提に事業承継を考えるとは、計画を曖昧にすることではありません。
むしろ、複数の選択肢を用意し、制度変更があっても方向転換できる余地を残すことを意味します。親族承継、社内承継、第三者承継の可能性を並行して検討し、特定の制度に依存し過ぎない承継計画を描くことが、結果的に安定性を高めます。
制度追随型から構造理解型へ
税制改正にその都度反応する「制度追随型」の姿勢では、判断が後手に回りやすくなります。
重要なのは、なぜその制度が存在し、なぜ見直されるのかという構造を理解することです。雇用維持や事業継続といった政策目的を押さえておけば、細かな制度変更があっても、本質的な判断軸はぶれにくくなります。
専門家の役割も変わる
税制改正を前提に考える場合、専門家の役割も単なる制度解説にとどまりません。
最新の改正内容を伝えるだけでなく、経営者の将来像や承継の方向性を踏まえて、どの程度制度に依存すべきか、どこにリスクがあるかを整理することが求められます。制度を「使わせる」専門家ではなく、判断を支える専門家との関係構築が重要になります。
結論
税制改正を前提に事業承継を考えるという発想は、不確実性の高い時代における現実的な対応です。
制度は変わるものとして受け止め、その変化に耐えられる承継計画を描くことが、結果として制度に振り回されない事業承継につながります。税制を絶対視せず、構造を理解したうえで主体的に選択する姿勢が、これからの中小企業経営には求められます。
参考
・日本経済新聞「M&Aは特別な手段ではない」PwCコンサルティング パートナー 久木田光明(2025年12月16日)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
