事業承継税制とM&A税制は、なぜ同時に語られないのか

FP
水色 シンプル イラスト ビジネス 解説 はてなブログアイキャッチのコピー - 1

事業承継を巡る税制を見ていると、不思議な違和感を覚えることがあります。
親族承継や社内承継を前提とした事業承継税制は繰り返し拡充・見直しが行われてきた一方で、M&Aによる第三者承継に関する税制は、同じ文脈で語られることがほとんどありません。
なぜ両者は並列で議論されないのでしょうか。この点を考えることは、税制改正を読み解くうえで重要な手がかりになります。

事業承継税制が想定している「承継のかたち」

事業承継税制は、その制度設計上、親族承継や社内承継を強く意識しています。
非上場株式を後継者が相続や贈与で取得し、同一企業を継続的に経営していくことが前提とされています。雇用維持や事業継続といった要件が細かく定められているのも、そのためです。
制度は、「会社は基本的に同じ枠組みの中で存続する」という考え方に立脚しています。

M&A税制が前提としている考え方

一方、M&Aによる事業承継は、税制上は資産の譲渡や株式の売却として整理されます。
そこでは、経営の継続よりも、取引としての公平性や中立性が重視されます。譲渡益に課税が行われるのは、経済的価値が実現した結果として自然な扱いとされているからです。
M&A税制は、事業の継続を直接支援する制度ではなく、取引をどう課税するかという視点で構築されています。

なぜ同じ土俵で語られないのか

事業承継税制とM&A税制が同時に語られにくい理由は、両者が異なる政策目的を持っているためです。
事業承継税制は、地域経済や雇用の維持を目的とした「守り」の政策色が強い制度です。一方、M&A税制は、市場取引としての中立性を重視する「ルール整備」の側面が強く、特定の承継形態を優遇する思想は採られていません。
この思想の違いが、制度の扱い方の差として表れています。

政策が本音で守りたいもの

税制改正を読み解く際に見えてくるのは、国が本音で守りたいものです。
事業承継税制の繰り返しの見直しからは、中小企業の廃業増加を防ぎ、雇用や地域経済を維持したいという強い意思が読み取れます。一方で、M&Aについては、税制で積極的に誘導するよりも、市場原理に委ねる姿勢が基本にあります。
この非対称性を理解しないと、税制改正の意図を誤って読み取ってしまいます。

結論

事業承継税制とM&A税制が同時に語られないのは、制度の欠陥ではありません。
それぞれが異なる政策目的と思想に基づいて設計されている結果です。税制改正を読む際には、表面的な有利・不利だけでなく、「どの承継のかたちを前提としている制度なのか」を意識することが重要です。
この視点を持つことで、制度に振り回されず、より主体的に事業承継を考えることが可能になります。

参考

・日本経済新聞「M&Aは特別な手段ではない」PwCコンサルティング パートナー 久木田光明(2025年12月16日)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

タイトルとURLをコピーしました