中小企業のM&Aにおいて、売り手となる経営者は人生の大きな意思決定を迫られます。
会社の将来、従業員の雇用、自身の引退後の生活など、多くの要素が絡み合うため、M&Aは単なる取引ではなく、経営判断そのものです。期待と現実のギャップを理解せずに進めると、後悔を残す結果にもなりかねません。
「高く売れる会社」とは何か
売り手経営者が最も関心を持ちやすいのは、会社がいくらで売れるのかという点です。しかし、評価額は業績だけで決まるものではありません。
安定した収益構造、特定の個人に依存しない組織体制、将来の成長余地などが重視されます。逆に、経営者個人の力量に過度に依存している場合、評価は抑えられる傾向があります。
日常の経営そのものが、将来の選択肢を左右していることを理解しておく必要があります。
財務・税務の整理は不可欠
M&Aの過程では、財務内容が厳密に確認されます。帳簿が整っていない、私的経費が混在しているといった状況は、交渉の障害になります。
また、株式や事業用資産の扱い、引退後の資金計画など、税務の視点も欠かせません。M&Aを検討し始めてから慌てて整理するのではなく、平時から透明性の高い経営を心がけることが重要です。
従業員・取引先への影響をどう考えるか
売り手経営者にとって、従業員や取引先の行方は大きな関心事です。
M&Aによって経営主体が変わることへの不安は避けられませんが、事前に条件や方針を整理し、誠実に説明することで混乱を抑えることができます。誰に、どのタイミングで、何を伝えるかは、慎重に検討すべき経営課題です。
引退後の人生設計とM&A
M&Aは、経営者自身の人生設計とも密接に関わります。
完全に引退するのか、一定期間は経営に関与するのかによって、交渉内容や条件は変わります。引退後の生活資金や役割を見据えたうえで判断することが、納得感のあるM&Aにつながります。
結論
売り手経営者にとってのM&Aは、単なる会社の売却ではなく、これまでの経営の総決算です。
期待だけでなく現実を直視し、財務や税務、組織の状態を整理したうえで臨むことが重要です。準備を重ねることで、M&Aは後悔の残らない意思決定に近づきます。
参考
・日本経済新聞「M&Aは特別な手段ではない」PwCコンサルティング パートナー 久木田光明(2025年12月16日)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
