中小企業の事業承継問題は、以前から指摘されてきました。しかし近年、その深刻さは一段と増しています。後継者不足は単なる人材の問題ではなく、経営構造や意思決定の先送りが重なった結果として表面化している側面があります。
事業自体は安定しているにもかかわらず、承継の準備が進まず、結果として廃業に至るケースも少なくありません。なぜ事業承継は、ここまで行き詰まりやすいのでしょうか。
後継者不足は「結果」である
事業承継の課題として真っ先に挙げられるのが、後継者不在です。ただし、これは原因というより結果に近いものです。
親族承継を前提とした経営モデルは、かつては自然な選択でしたが、価値観や働き方の変化により、その前提は崩れています。子どもが別のキャリアを選ぶことは珍しくなく、社内人材についても、経営を引き継ぐ覚悟や条件が整わないケースが増えています。
承継が「感情の問題」になりやすい構造
事業承継が難航する背景には、経営者個人の感情が大きく影響します。
自ら築き上げた会社であるがゆえに、「まだ自分がやれる」「誰かに任せるのは不安だ」という思いが強くなりがちです。その結果、承継の検討が後回しになり、気づいたときには選択肢が大きく狭まっていることがあります。
事業承継は本来、経営戦略の一部ですが、感情論として扱われやすい点が問題を複雑にしています。
「まだ大丈夫」が最大のリスクになる
中小企業の事業承継では、「今すぐ困っていない」ことが最大の落とし穴になります。
業績が安定している場合ほど、承継準備の優先順位は下がりがちです。しかし、承継には時間がかかります。後継者の育成、株式や資産の整理、取引先や金融機関との調整など、短期間で進めることは困難です。
準備を先送りした結果、体調不良や突発的な事情により、十分な検討ができないまま廃業を選択せざるを得なくなるケースも見られます。
親族承継・内部承継だけに頼る限界
親族承継や社内承継は、引き続き有力な選択肢ではありますが、それだけに依存するのは現実的ではなくなっています。
後継者がいても、事業規模や負債、将来の成長性を考えた結果、引き継ぐことが合理的でないと判断される場合もあります。このとき、他の選択肢を準備していなければ、会社の存続自体が危うくなります。
結論
中小企業の事業承継が行き詰まる背景には、後継者不足だけでなく、構造的な問題と意思決定の先送りがあります。
重要なのは、事業承継を「いつか考える問題」ではなく、早い段階から経営課題として扱うことです。親族承継や内部承継に加え、第三者承継やM&Aを含めた複数の選択肢を持つことで、会社の将来に柔軟性が生まれます。
参考
・日本経済新聞「M&Aは特別な手段ではない」PwCコンサルティング パートナー 久木田光明(2025年12月16日)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
